「昔から使っていたスミチオンが売っていない」「販売終了って本当?」——そんな声が園芸や農業の現場で増えています。害虫対策の定番として長年親しまれてきたスミチオンですが、近年、販売終了や生産終了の動きが進んでいるのは確かです。ここでは、その理由や背景、そして今後の代替・後継品について、わかりやすく解説します。
スミチオンとは?有効成分と特徴をおさらい
スミチオンは、住友化学が開発・販売してきた有機リン系殺虫剤です。
有効成分は「フェニトロチオン(MEP)」で、さまざまな害虫に効果を発揮することから、家庭園芸から本格的な農業まで幅広く使われてきました。
特徴としては、殺虫スペクトルが広く、アブラムシやカメムシ、アオムシ、コナジラミなど多くの害虫に対応できる点です。また、比較的残効性もあり、散布後しばらくは効果が持続することから、長年にわたり“定番農薬”として親しまれてきました。
ただし、スミチオンは有機リン系というカテゴリーに属しており、近年ではこの系統の農薬が世界的に見直しの対象となっています。
スミチオンが販売終了となった主な理由
有機リン系農薬の規制強化と社会的な流れ
スミチオンの販売終了の背景には、まず「有機リン系農薬の規制強化」があります。
有機リン系は古くから使われてきた一方で、環境や人体への影響が指摘されており、世界的に使用が縮小されているカテゴリーです。ヨーロッパではすでに多くの有機リン系農薬が禁止・制限され、日本でも使用基準や登録審査が厳しくなっています。
こうした流れを受けて、メーカー側が継続的な登録更新や新規データ提出の負担を考え、販売を終了するケースが増えているのです。スミチオンもその影響を大きく受けています。
登録更新コストと採算性の問題
農薬を販売し続けるには、定期的な「再評価」や「登録更新」が必要です。その際には、残留性・毒性・環境影響などのデータを提出する義務があります。
これらの審査には膨大な費用がかかり、売上が限られる古い製剤では採算が取れないケースが増えています。
メーカーとしても「安全基準を満たすためのコスト」と「販売収益」を比較した結果、スミチオンのような古い有機リン剤を終了する判断に至ったと考えられます。
効果の低下・害虫の耐性化
もう一つの要因として、「害虫の耐性化」も挙げられます。長年にわたり同じ薬剤を使用すると、対象となる害虫が徐々に薬剤に慣れ、効き目が弱くなることがあります。
農家の現場からも「以前ほど効果がない」「散布しても再発する」といった声が聞かれており、スミチオンに頼りすぎた結果、耐性虫の問題が顕在化してきたのです。
メーカー側も「今後も同じ成分で販売を続ける意義が薄い」と判断した可能性があります。
使用条件・環境影響の厳格化
農薬の登録制度では、対象作物や使用回数、散布間隔などが細かく制限されています。
スミチオンの場合、樹木類など特定用途での使用回数が制限されるなど、使用条件が年々厳格化されていました。加えて、水生生物やミツバチなどへの影響も懸念され、環境省からも注意喚起がなされています。
こうした背景もあり、製造・販売を続けるよりも、安全性がより高い新系統の薬剤へシフトする動きが加速したといえるでしょう。
スミチオンの販売終了スケジュールと現状
2026年(令和8年)9月末をもって、「スミチオン乳剤」や「スミチオン水和剤40」などの一部製品が販売終了予定と発表されています。
ただし、すでに流通している在庫分については、期限内であれば使用可能とされています。つまり、2026年以降もしばらくは市場在庫が残る見込みです。
ただし、店舗や地域によってはすでに取り扱いを終了している場合もあり、「入手できない」「売り切れている」という声が出ています。今後は、在庫限りの販売が進むため、確実に必要な場合は早めの入手が推奨されます。
スミチオンの代替・後継となる薬剤は?
スミチオンが使えなくなっても、害虫対策を諦める必要はありません。現在では、より安全で新しい系統の薬剤が多数登場しています。ここでは、スミチオンの代替や後継として検討できる選択肢を紹介します。
1. ピレスロイド系殺虫剤
ピレスロイド系は、速効性と安定した効果が特徴で、家庭園芸から農業まで幅広く使われています。代表的な成分には「フェンプロパトリン」「エトフェンプロックス」などがあります。
有機リン系に比べて毒性が低く、扱いやすいのが利点です。
2. ネオニコチノイド系殺虫剤
「アセタミプリド」「イミダクロプリド」などが代表的な成分で、植物体に浸透して長期間効果を発揮します。アブラムシ類やコナジラミなど、スミチオンが得意としていた害虫にも高い効果があります。
ただし、使用時期や回数には制限があり、適用作物を必ず確認することが大切です。
3. 新系統の低環境負荷型農薬
最近では、「スピノシン系」「ジアミド系」といった新しい系統の薬剤が登場し、環境負荷が少なく、人や動植物にも比較的安全とされています。
スミチオンに代わってこうした“次世代農薬”への移行が今後の主流になると見られています。
代替品を選ぶ際のポイント
代替薬を選ぶ際は、単に「スミチオンと似ている」だけでなく、次の点を確認しましょう。
- 対象害虫と作物が一致しているか
- 使用回数や希釈倍率が違うため、ラベルを必ず確認する
- 同じ系統の薬剤を連続使用しない(耐性化を防ぐため)
- ミツバチや魚類などへの影響表示をチェックする
- 使用期限・保管条件を守る
また、農薬を選ぶときは「地域のJAや販売店に相談する」「自治体の農業試験場の資料を確認する」など、公式情報をもとに判断するのが安心です。
現場の声と今後の展望
スミチオンが長年親しまれてきた背景には、「どの害虫にも効く万能感」と「価格の手頃さ」がありました。
その一方で、時代が進むにつれ「より環境にやさしく」「より安全な」農薬が求められるようになり、古い成分が淘汰されていくのは自然な流れとも言えます。
現在は移行期にあたり、有機リン系から新系統への切り替えが急速に進んでいます。スミチオンの販売終了は、その象徴的な出来事ともいえるでしょう。
スミチオン販売終了のまとめと今後の対策
スミチオンが販売終了する理由は、有機リン系農薬の規制強化、登録維持コストの増大、効果低下や環境影響への懸念など、複数の要因が重なった結果です。
2026年9月末を目途に販売終了が予定されており、在庫分はしばらく流通する見込みですが、いずれ手に入りにくくなるのは確実です。
今後は、ピレスロイド系・ネオニコチノイド系・新系統など、より安全で持続可能な薬剤への切り替えが重要になります。
スミチオンに長年お世話になってきた方も、これを機に新しい世代の農薬へシフトしてみるのも良いタイミングかもしれません。
農業や園芸は環境と共にあるもの。変化に対応しながら、より安心して使える薬剤を選ぶことが、これからのスタンダードになっていくでしょう。
