「いつも使っていたエムダイファー水和剤が、店頭や通販で見つからなくなった…」
そんな声が農業関係者の間で増えています。果樹や花きの防除で長く使われてきた殺菌剤「エムダイファー水和剤」が、実は販売終了に向かっているのをご存じでしょうか。ここでは、販売終了の背景や理由、今後の入手方法、そして代わりとなる後継・代替薬剤の情報をわかりやすく解説します。
エムダイファー水和剤とは?基本情報をおさらい
まず、エムダイファー水和剤がどんな農薬だったのかを簡単に振り返っておきましょう。
エムダイファー水和剤は、クミアイ化学工業株式会社などが製造・販売していた殺菌剤です。有効成分は「マンネブ(マンガン‐エチレンビス(ジチオカルバメート))」で、有機硫黄系の広域殺菌剤として古くから親しまれてきました。登録番号は第10557号(クミアイ化学)と第10559号(サンケイ化学)で、同成分・同剤型の姉妹品も存在します。
特長としては、
・黒点病や小黒点病、炭そ病、落葉病などに予防効果が高い
・べと病や灰色かび病、さび病などにも適用範囲が広い
・淡黄緑色の水和性粉末で、作物への付着が目立ちにくい
といった点が挙げられます。
柑橘類、なし、かき、ぶどう、ばら、きく、カーネーションなど、幅広い作物で長年利用されてきた、いわば「定番殺菌剤」のひとつでした。
なぜエムダイファー水和剤は販売終了になったのか
現在、多くの通販サイトで「メーカー製造中止」「在庫限り」と表示されています。
実際、農薬登録情報を見ると、登録自体は残っているものの、流通量が減少しており、メーカーによる新規製造は終了しているようです。では、その背景には何があるのでしょうか。
1. 登録制限の強化
近年、マンネブを含む農薬に対し、使用回数や使用時期の制限が強化されています。
たとえば「りんご」など一部作物では、使用回数が「2回以内」から「1回」に減らされたり、他の成分との併用が制限されたケースもあります。
こうした登録内容の見直しが相次ぐと、製品ごとの登録維持コストが上昇し、メーカーにとっては生産継続の負担が大きくなります。
2. 国際的な残留基準(MRL)の影響
輸出果実を扱う産地では、各国の残留農薬基準(MRL)に対応する必要があります。
マンネブ系の薬剤は、海外では基準が厳しく設定されている国もあり、輸出作物向けに使いにくくなってきました。EUなどでは一部成分が「再評価対象」となり、今後の登録継続が難しいと判断されることもあります。
その結果、グローバル市場を視野に入れるメーカーほど、該当成分の製剤を整理する動きが強まりました。
3. 登録維持と安全性評価のコスト増
農薬は登録後も定期的に「再評価」や「データ更新」が求められます。
この手続きには膨大な試験データや費用が必要で、使用範囲が縮小している薬剤をわざわざ更新するメリットが少ない場合、メーカーは「製造中止」という判断を下すことがあります。
エムダイファー水和剤も例外ではなく、長年の販売実績を持ちながらも、最新の規制や評価体制に合わせるにはコストがかかりすぎたと見られます。
4. 市場規模の縮小と製品ラインの整理
エムダイファー水和剤は、古くから定番とされてきた一方で、最近ではより新しい系統の殺菌剤が増えています。
耐性菌対策や環境負荷の低減を目的に、新規成分へ切り替える生産者が増え、マンネブ製剤の需要は減少傾向にあります。
こうした市場変化も、メーカーが製造を終了する大きな理由のひとつと考えられます。
現在の入手状況と購入時の注意点
エムダイファー水和剤は、2025年時点で「製造終了」「在庫限り」の状態です。
一部の農業資材店や通販サイトでは、まだ在庫販売が行われていますが、ほとんどが「有効期限2026年10月まで」「在庫がなくなり次第終了」と明記されています。
購入を検討する場合は、以下の点に注意してください。
・有効期限を必ず確認する(古い在庫も出回っている可能性あり)
・最新のラベルを確認し、登録作物や使用回数が変更されていないか確認する
・メーカー保証が終了しているため、品質や効果に関するサポートは受けられない
在庫販売が終われば、正式に市場から姿を消すことになります。
必要な場合は、早めの確保が現実的な対応策です。
後継モデルや代替薬剤はあるのか?
「後継製品があるなら、それに切り替えたい」という声も多くありますが、現時点でメーカーが公式に「エムダイファー水和剤の後継」と発表している製剤はありません。
ただし、代替候補として考えられる薬剤はいくつかあります。
ここでは、選定のポイントを踏まえて考えてみましょう。
1. 成分系統を変える
エムダイファー水和剤はマンネブ系(ジチオカルバメート系)に分類されます。
同系統の薬剤を連続使用すると、耐性菌発生リスクがあるため、別系統の殺菌剤を組み合わせるのが基本です。
たとえば、ストロビルリン系(アゾキシストロビンなど)やSDHI系(フルオピコリド、イソフェタミドなど)を用いた新しい殺菌剤が、近年の主流になっています。
2. 目的病害に合わせた製剤を選ぶ
果樹の黒点病・炭そ病、花きの灰色かび病・べと病など、用途に合わせて防除効果の近い薬剤を探すのが現実的です。
農協や地域農業改良普及センターでは、最新の防除暦や薬剤ローテーション例を公表していますので、それを参考に選定すると安心です。
3. 天敵・環境に配慮した体系へシフト
エムダイファー水和剤が活躍した時代から比べ、現在は「環境負荷の少ない農業」や「化学農薬の使用削減」が求められています。
今後は、より選択性の高い薬剤や生物農薬、天敵を活かした防除体系への移行も視野に入れるとよいでしょう。
生産者が今すぐできる対応策
エムダイファー水和剤の販売終了は、現場にとって少なからず影響を与えます。
特に長年の使用実績がある場合、「次に何を使えばいいのか」「どのくらい在庫を確保すべきか」と悩む人も多いはずです。
ここでは、当面の対応策をいくつか挙げます。
- 在庫を確認・計画的に使用する
すでに購入済みの在庫がある場合は、有効期限と登録条件を確認したうえで、計画的に使い切りましょう。 - 防除体系を見直す
エムダイファー水和剤を中心にしていた防除スケジュールを、別系統の薬剤に置き換える必要があります。
農協や普及センター、メーカーの技術資料などを参考に、ローテーション体系を再構築しましょう。 - 代替薬剤の試験・比較を行う
新しい薬剤の使い勝手や効果を、少量から試すのもおすすめです。
同じ病害でも作物や地域によって最適な製剤が異なるため、自分の圃場で確かめるのが確実です。 - メーカー・販売店に最新情報を確認する
農薬登録や販売状況は変動があります。メーカーの最新ニュースリリースや販売代理店の案内をチェックすることで、誤使用や法令違反を防げます。
まとめ:エムダイファー水和剤販売終了は時代の転換点
長く愛用されてきたエムダイファー水和剤の販売終了は、ひとつの時代の節目といえます。
背景には、農薬登録制度の見直し、残留基準の厳格化、環境配慮型農業への流れといった「時代の変化」があります。
とはいえ、エムダイファー水和剤の代わりに使える製剤はすでに多数登場しています。
重要なのは、ただ「同じ効き目の薬」を探すことではなく、これからの農業に合った防除体系を作り直すことです。
古い農薬が姿を消すのは寂しいですが、それは新しい技術や安全基準に進化していく過程でもあります。
これを機に、自分の圃場に最適な防除方法を再構築し、次のステップへ進む準備を整えていきましょう。
エムダイファー水和剤販売終了の理由と今後の展望
エムダイファー水和剤が販売終了した背景には、
・使用制限の強化
・国際基準(MRL)の対応負担
・登録維持コストの増加
・市場縮小と新薬剤への移行
といった要因が重なっています。
今後は、在庫限りの販売が終了すれば、正式に市場から姿を消す見込みです。
代替品を選ぶ際は、成分系統や登録条件をよく確認し、最新の情報をもとに安全・適正な防除を行いましょう。
エムダイファー水和剤が担ってきた役割は終わりを迎えつつありますが、その経験は次世代の農業を支える貴重な知恵として活かせるはずです。
