「スポンゼルって、もう手に入らないの？」
最近、歯科や外科などの医療現場でそんな声を耳にすることが増えてきました。
吸収性ゼラチンスポンジとして長年愛用されてきた「スポンゼル」。
抜歯後の止血や小手術での使用など、医療従事者にとって欠かせない存在でしたが、ついに販売終了が正式に発表されました。
この記事では、その背景や理由、そして今後の代替品・類似商品の情報を分かりやすく解説します。
スポンゼルとはどんな製品？
まず、そもそもスポンゼルとはどんなものだったのでしょうか。
スポンゼルは、ゼラチンを主成分とした吸収性の止血用スポンジです。医療用として開発され、出血部位に貼り付けたり包み込むように使用することで、物理的な圧迫と吸収性により止血を促します。
とくに歯科領域では、抜歯後の出血を抑えるためにスポンゼルを歯槽窩に挿入する使い方が一般的でした。
また、外科や整形外科の分野でも、毛細血管や組織表面からの滲出性出血をコントロールするために広く利用されていました。
体内で自然に吸収される性質を持つため、抜糸や除去が不要という利点もあり、扱いやすく安全性の高い止血材として長年信頼されてきた製品です。
スポンゼル販売終了の背景
2025年、製造販売元であるLTLファーマ株式会社から正式に「スポンゼル販売終了」の通知が出されました。
出荷は2025年9月で終了し、経過措置期間は2026年3月末までとされています。
理由として発表されたのは、「安定供給の継続が困難になったため」。
もともと2021年から「限定出荷」という形で供給が制限されていましたが、需要の集中や原料・生産体制の問題などにより、十分な供給が維持できなくなったと説明されています。
医療用止血材は特殊な品質管理が求められます。わずかな製造工程の変化でも品質に影響が出るため、少量生産を続けることが難しいのが現実です。
また、医療用消耗品は薬価が低く、メーカー側の採算が合いにくいという構造的な問題もあります。
こうした事情が重なり、長年愛されてきたスポンゼルも市場から姿を消すことになりました。
医療現場での影響
販売終了の知らせが出た直後から、歯科や医療現場では大きな反響がありました。
特に、抜歯や小手術の際に必ずといっていいほど使っていた歯科医院では、在庫確保や代替品の選定に追われるケースも。
「他の止血材では感触が違う」「吸収のスピードが異なる」といった声も多く、長年の慣れがあるだけに、完全な置き換えは簡単ではありません。
ただし、医療従事者の多くは冷静に代替製品を検討しており、実際には機能面で近い製品もいくつか存在します。
スポンゼルの代替品として注目されている製品
では、スポンゼルの代わりになる止血材はどんなものがあるのでしょうか。
ここでは、実際に医療機関で代替として使用されている、または推奨されている製品をいくつか紹介します。
1. サージセルMD（アブソーバブル・ヘモスタット）
スポンゼルの正式な代替品として最も有力なのが「サージセルMD」。
こちらも吸収性の止血スポンジで、ゼラチンではなく再生セルロースを素材としています。
生体適合性が高く、止血効果も十分。
メーカーもスポンゼルの販売終了にあたり、サージセルMDへの切り替えを推奨しています。
使い方も似ており、創面に貼る、圧迫する、といった方法で使用できます。
吸収速度はおよそ1〜2週間で、スポンゼルとほぼ同等です。
2. アビテン（ゼラチンスポンジ）
アビテンもゼラチン系の吸収性止血材で、スポンゼルに非常に近い感触を持つ製品です。
粒子状やシート状など形態が豊富で、外科・歯科の双方で利用可能。
スポンゼルと同様、トロンビン溶液を染み込ませて使用するケースも多く、使い勝手の面でも違和感が少ないでしょう。
3. タコシール／ベリプラスト（フィブリン系止血材）
ゼラチンではなく、ヒト由来フィブリノゲンやトロンビンを主成分としたタイプです。
手術中の局所止血に用いられることが多く、より高い止血力を発揮します。
ただし、価格が高く、適応範囲が限られるため、スポンゼルのような汎用的な使い方には向きません。
4. オキシセル（セルロース系止血材）
再生セルロースを素材とする吸収性止血材。
体内で分解吸収される性質を持ち、出血面への密着性も良好です。
血液と接触するとすぐにゲル状になり、物理的に出血を抑えます。
価格と入手性のバランスがよく、スポンゼルの代わりとして注目されています。
5. サージカルスポンジ（汎用ゼラチンスポンジ）
医療用として販売されているゼラチンスポンジの汎用品。
医療機器認証を受けているものも多く、用途に応じてサイズや厚みを選べます。
メーカーによっては「歯科用」「整形外科用」など用途別にラインナップを展開しており、現場のニーズに合わせやすいのが特徴です。
代替品を選ぶときのポイント
スポンゼルの代替品を選ぶ際には、単に「似ている素材」だけで判断するのは危険です。
以下の点を意識して選ぶのが安心です。
- 吸収性と使用部位の適合性
歯科、外科、整形外科など、使用目的によって最適な素材は異なります。 - アレルギーの有無
ゼラチンアレルギーの患者にはゼラチン系の止血材は使用できません。セルロース系への切り替えが安全です。 - 使用手順と感触の違い
トロンビン溶液を使うタイプか、乾燥状態で使うタイプかによって手技が異なります。 - 供給の安定性
販売終了の影響で一時的に代替品の需要が集中する可能性もあります。複数の候補を把握しておくと安心です。
現場の声と今後の見通し
歯科医の間では「サージセルMDへの移行で大きな問題はない」という意見がある一方で、「吸収速度が若干違う」「使い慣れた感覚が失われた」といった声もあります。
それでも、医療現場は柔軟に対応しており、患者への影響は最小限に抑えられています。
また、今後は再生セルロース系や植物由来素材を使用した止血材の開発も進む見込みです。
ゼラチンに依存しない新しい素材の登場によって、より安定した供給が期待されています。
スポンゼル販売終了後にできること
医療従事者であれば、今のうちに以下の対応を進めておくと良いでしょう。
- 代替製品の使用トレーニングを行う
- 在庫の有効期限を確認し、計画的に使用・切り替えを進める
- 患者説明の際に使用素材の違いをわかりやすく伝える
また、一般の方でスポンゼルという名前を聞いたことがある人は、これはあくまで医療機関向けの製品であり、市販されていないことを理解しておきましょう。
家庭で使うような傷用のガーゼや絆創膏とはまったく異なる性質を持つ専門製品です。
スポンゼル代替品まとめと今後の展望
スポンゼルの販売終了は、多くの医療現場にとって小さくないニュースでした。
しかし、その代替となる製品はすでに複数登場しており、止血技術そのものが途絶えるわけではありません。
今後は、サージセルMDをはじめとしたセルロース系・ゼラチン系の新しい止血材が主流になっていくでしょう。
また、メーカー各社が供給体制の安定化に取り組むことで、現場の混乱も次第に落ち着くと考えられます。
長年医療現場を支えてきたスポンゼルの功績は大きいですが、代替品の登場は新しい進化の兆しでもあります。
素材の多様化や安全性の向上によって、これからの止血材はより扱いやすく、環境にも優しい方向へと進んでいくでしょう。
スポンゼルが販売終了となっても、止血材の技術は進化を止めません。
新しい選択肢を知り、現場に合った代替品を選ぶことが、これからの医療を支える第一歩になります。
