Apple Arcadeで話題を呼んだ名作RPG『FANTASIAN』が、ついに家庭用・PC向けに生まれ変わった。タイトルは『FANTASIAN Neo Dimension』。[ファイナルファンタジーの生みの親・坂口博信氏、そして音楽は植松伸夫氏――この黄金コンビが再びタッグを組み、幻想とノスタルジーを融合させた世界を描く。この記事では、作品の魅力からシステム、ビジュアル、音楽、そして課題まで、実際にプレイしたうえで徹底的に検証していく。
記憶を失った青年と、歪んだ幻想世界の旅
物語は、記憶を失った青年レオが見知らぬ世界で目覚める場面から始まる。彼は自らの失われた過去を探す旅の中で、少女キナをはじめとする仲間と出会い、やがて「メクテリア」と呼ばれる機械的な存在に立ち向かうことになる。
ストーリーの核は「記憶」と「選択」。どこか懐かしくも切ない展開が続き、ファンタジーでありながらSF的な要素も巧みに織り込まれている。プレイヤーの多くが「90年代JRPGのような王道の温かさ」と「現代的な演出の深み」が共存していると評しているのも納得だ。
物語のテンポはややゆったりめだが、キャラクター同士の掛け合いや、レオの断片的な記憶が紡がれていく流れには確かなドラマがある。特に後半、真実が明かされていく展開では、静かな感動が胸に迫る。
“手作りの世界”が放つ圧倒的な存在感
『FANTASIAN Neo Dimension』を語るうえで欠かせないのが、実物ジオラマを背景に使用した独自のアートスタイルだ。スタッフが1つ1つ手作業で作り上げたミニチュアの街や遺跡を撮影し、それを3Dキャラクターと融合させることで、どこか現実と幻想のあいだにあるような独特の空気感を生み出している。
プレイヤーは、まるで小さな箱庭の中を旅しているような感覚に包まれる。光の差し込み方、木々の質感、街の遠景――どれもが実写的で、しかしゲーム的でもあるという絶妙なバランスだ。ジオラマの温もりは、最新のCGでは再現できない「手触りのある世界」を感じさせてくれる。
一方で、Nintendo Switch版では背景の解像度がやや落ち、近距離で粗さを感じる場面もある。だが、全体的な没入感は圧倒的で、細部の表現に込められた熱量は確かに伝わってくる。
戦略性とテンポを両立した「ディメンジョンバトル」
戦闘システムはコマンドベースながら、従来のJRPGとは一線を画す仕組みを採用している。その名も「ディメンジョンバトルシステム」。敵とのランダムエンカウントを一度に貯めておき、任意のタイミングでまとめて戦うことができるのだ。
これにより、探索中に何度も戦闘で足止めされる煩わしさが軽減され、プレイヤーが自分のテンポで冒険を進められる。さらに、戦闘時にはスキルの“軌道”を操作でき、直線や曲線を描いて複数の敵を一度に攻撃するなど、立体的な戦略性が生まれている。
戦闘バランスは歯ごたえがあり、特に中盤以降のボス戦は戦略なしでは突破できない。パーティ構成やスキルの組み合わせ、装備の強化など、古典的なRPGの奥深さがしっかりと息づいている。難易度はやや高めだが、勝利した時の達成感は格別だ。
植松伸夫が紡ぐ、記憶に残る旋律
音楽面も本作の大きな魅力のひとつだ。作曲を担当したのは、『ファイナルファンタジー』シリーズで知られる植松伸夫氏。彼のメロディラインは相変わらず温かく、どこか郷愁を感じさせる。
特に印象的なのは、静かなピアノの旋律が流れる記憶のシーンや、ボス戦で鳴り響くオーケストラの高揚感。世界の美しさと哀しみを同時に表現する音楽が、プレイヤーの心に深く刻まれる。レビューでも「音楽だけで涙が出た」「これぞ坂口×植松の原点回帰」と絶賛する声が多い。
また、家庭用版ではフルボイス化によりキャラクターたちの感情表現が格段に豊かになった。特に主要キャラクターの演技は自然で、シナリオへの没入感を高めている。
旧作からの進化点と技術面の課題
Apple Arcade版から移植された本作だが、単なるリマスターではない。ビジュアルの高解像度化、UIの改善、ボイス実装など、あらゆる面で進化している。家庭用版では最大4K解像度にも対応し、PC版では安定したフレームレートで快適に遊べる。
ただし、Nintendo Switch版ではロード時間の長さや一部シーンでのフレーム落ちが報告されている。これらはプレイ体験を大きく損なうほどではないが、マルチプラットフォームの中ではPC・PS5版が最も快適だと感じられるだろう。
UI面では、地図機能がやや不親切で目的地が分かりにくい点もある。こうした部分はアップデートでの改善に期待したい。
登場キャラクターたちの魅力と課題
物語を彩る仲間たちは個性豊かで、プレイヤーとの距離が近い。キナの無邪気さ、ヴァレリオの頼もしさ、そして機械生命体プリナの可愛らしさなど、バランスの取れたチーム構成が心地よい。
一方で、キャラクターの掘り下げがやや浅いと感じる部分もある。特に後半はストーリーの大筋に集中するあまり、仲間たちの内面描写が薄くなってしまう場面があるのが惜しい。それでも、各キャラクターが放つ温かみと人間味が、全体の雰囲気を支えているのは間違いない。
評価と総評:坂口RPGの原点回帰
総じて、『FANTASIAN Neo Dimension』は**“坂口博信が描くJRPGの原点回帰”**という表現がふさわしい。最新技術に頼らず、手作りの世界観と人間的なドラマで勝負する姿勢が、逆に新鮮さを感じさせる。
ジオラマ背景の美しさ、戦闘の戦略性、音楽の深み――どれを取っても一級品だ。一方で、物語構成の間延びや技術的な細部には改善の余地がある。しかし、それを補って余りある情緒と創造力が、本作には確かに宿っている。
ファイナルファンタジーのような重厚なファンタジーを求める人、もしくは「昔ながらのRPGの温もり」を再び感じたい人には、間違いなく心に響く一本だろう。
『FANTASIAN Neo Dimension』レビューの結論
『FANTASIAN Neo Dimension』は、幻想世界と音楽が織り成す叙情的なRPG体験だ。坂口博信×植松伸夫という黄金コンビが再び生み出したこの作品は、単なる懐古ではなく、過去と現在をつなぐ“新しいクラシック”といえる。
派手な演出よりも、物語と世界観を丁寧に味わう――そんな静かな感動を求めるプレイヤーにこそ、手に取ってほしい。
そして、その旅の終わりにきっと思うだろう。「こんなRPGが、もう一度遊べる時代が来たのか」と。
