「片頭痛がつらい」「薬を飲んでも効かない」「毎日の痛みにうんざりしている」——そんな悩みを抱える人が増えています。最近は、従来の飲み薬ではなく「注射による予防治療」を選ぶ人も少なくありません。
この記事では、片頭痛に使われる注射の種類や効果、副作用、費用などをわかりやすくまとめます。どの治療が自分に合うのかを考える参考にしてください。
そもそも片頭痛とは?注射治療が注目される理由
片頭痛は、頭の片側または両側がズキンズキンと痛み、光や音、においに敏感になったり、吐き気を伴うこともある頭痛です。
原因のひとつとして注目されているのが「CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)」という神経伝達物質。発作中にこのCGRPが過剰に放出されることで血管が拡張し、痛みを引き起こすと考えられています。
このCGRPの働きを抑えることで片頭痛を予防しようとするのが、近年登場した「CGRP関連抗体薬」という注射タイプの新しい治療法です。
従来の予防薬(β遮断薬、抗てんかん薬、抗うつ薬など)に比べ、効果が安定しやすく、副作用が少ない点が注目されています。
片頭痛の注射治療で使われる主な薬剤
現在、日本で保険適用されている片頭痛予防注射は3種類あります。それぞれ特徴や投与間隔が異なるため、生活スタイルや体質に合わせて選ぶことが大切です。
エムガルティ(ガルカネズマブ)
月に1回の皮下注射で、初回のみ2本を投与します。
「頭痛の頻度が半分以下になった」と感じる人が約6割、「痛みが軽くなった」と答える人が7〜8割という報告もあります。
副作用としては注射部位の赤みや腫れ、倦怠感などが一部で見られますが、重い副作用は少ないとされています。
費用は3割負担の場合で1回あたり12,000〜13,000円前後が目安です。
アジョビ(フレマネズマブ)
月1回または3か月に1回(3本同時注射)から選べます。
通院回数を減らしたい人には3か月ごとの注射が便利です。
臨床研究では、片頭痛の発作日数を有意に減らし、生活の質を改善したという結果も報告されています。
副作用は局所の痛みや発赤など。薬価は1本あたり4万円台で、自己負担はおおよそ1〜1.3万円ほどになります。
アイモビーク(エレヌマブ)
CGRPそのものではなく、その受容体をブロックするタイプの薬です。
1回の注射量が少なく、痛みに敏感な人でも使いやすいのが特徴。
1か月に1回の自己注射が基本で、通院回数を減らせるタイプもあります。
国内データはまだ少ないものの、有効性と安全性が報告されています。
効果はどのくらい?実際の改善データ
これら3剤はすべて「頭痛日数を減らす」目的で開発されており、急な発作を止める薬(トリプタンなど)とは異なります。
臨床試験や国内の実例では、平均で月に数日〜半数程度の発作日数が減少したというデータが複数あります。
たとえばエムガルティを使用した人の約7割が「痛みが軽くなった」と回答し、アジョビを使った人の多くも「発作回数が半分以下になった」と報告されています。
一方で「まったく効かない」「最初の数か月は効果がわかりにくい」と感じる人もおり、個人差が大きいのも事実です。
医師と相談しながら、少なくとも3か月程度は続けて効果を見極めるのが一般的です。
副作用と注意点
CGRP関連抗体薬は従来の予防薬に比べて副作用が少ないとされますが、まったくゼロではありません。
主に見られるのは以下のようなものです。
- 注射部位の痛み・赤み・腫れ
- 倦怠感、かゆみ
- 便秘(アイモビークで一部報告あり)
また、妊娠・授乳中は安全性が確立していません。妊活中や授乳中の方は医師に必ず相談を。
長期使用に関するデータはまだ十分ではなく、数年以上続けた場合の影響は今後の研究に委ねられています。
高血圧や心疾患などの持病がある方も、主治医と慎重に検討する必要があります。
費用と保険適用の仕組み
3剤とも保険適用があり、一定の条件を満たせば3割負担で治療が可能です。
条件の目安としては、
- 月に4日以上片頭痛がある
- 従来の予防薬を1種類以上試して効果がなかった、または使えない
といった点が挙げられます。
1回あたりの自己負担額は12,000〜13,000円前後、3か月に1回注射する場合はその都度費用が発生します。
高額療養費制度を使えば、自己負担を抑えることも可能です。詳しくは医療機関で確認しておきましょう。
どの注射を選べばいい?比較ポイントまとめ
3種類の注射にはそれぞれメリットがあります。選ぶ際のポイントを整理すると次の通りです。
また、生活リズムや仕事、費用負担も考慮して選ぶことが大切です。
「毎月通院できる」「多少費用がかかっても発作を減らしたい」「注射の痛みが苦手」など、価値観によって最適解は変わります。
医師と相談しながら、自分に合う治療プランを決めていきましょう。
注射以外の治療や併用の考え方
片頭痛の治療は薬だけではありません。
生活習慣の改善やトリガー(誘因)を避けることも重要です。
- 睡眠リズムを整える
- カフェインやアルコールの摂りすぎに注意
- 強い光や音、ストレスを避ける
- 頭痛日記で発作のパターンを把握する
発作が起きてしまった場合は、トリプタン製剤や市販の鎮痛薬を使う急性期治療と、注射による予防治療をうまく組み合わせることでコントロールしやすくなります。
今後の展望と注意すべきポイント
CGRP関連抗体薬の登場により、片頭痛治療の選択肢は大きく広がりました。
今後はさらに長期データが蓄積され、安全性や継続効果が明確になっていくと期待されています。
また、CGRP以外の新しい作用機序を持つ薬の開発も進んでおり、より個人に合わせた治療が可能になる見込みです。
ただし、新しい治療法である以上、費用やデータの蓄積には課題も残ります。
「どのくらい続けるべきか」「やめたら再発するのか」といった点も、医師と相談しながら慎重に判断することが大切です。
片頭痛の注射はどれがいい?まとめと選び方のヒント
片頭痛の注射治療は、従来の内服薬で効果が得られなかった人にとって新しい希望となっています。
エムガルティ、アジョビ、アイモビークのいずれもCGRPという物質を抑えて発作を予防しますが、通院頻度や費用、打ち方の違いがあります。
選ぶときは「生活に合うか」「副作用リスクを許容できるか」「経済的に続けられるか」を冷静に見極めること。
注射治療はあくまで“選択肢の一つ”であり、ライフスタイルの改善や急性期薬との併用が欠かせません。
自分にとって無理のない治療を見つけ、片頭痛に悩まされない日常を取り戻していきましょう。
