AI開発やロボット制御、エッジコンピューティングの入門機として人気を集めた「Jetson Nano」。手軽にディープラーニング環境を構築できるボードとして、多くのクリエイターや研究者に愛用されてきました。そんなJetson Nanoが「販売終了」との情報が広がり、ネット上では「もう買えないの?」「後継モデルは?」といった声が相次いでいます。この記事では、販売終了の背景や今後の入手方法、そして注目の後継機「Jetson Orin Nano」についてわかりやすく解説します。
Jetson Nanoとは?エッジAIの定番入門機
まず、Jetson Nanoがどんな製品だったのかを簡単に振り返りましょう。
NVIDIAが2019年に発売したJetson Nanoは、小型コンピュータでありながらGPU(グラフィック処理ユニット)を搭載し、画像認識や物体検出といったAI処理をローカルで実行できることが特徴でした。
CPUにはArm Cortex-A57を採用し、128基のCUDAコアを持つMaxwellアーキテクチャGPUを搭載。
わずか5〜10Wの消費電力でAIモデルを動かせるため、ロボット制御・画像解析・IoT機器開発などに幅広く利用されました。
開発キットも1万円台で手に入り、AIを学ぶ学生やホビーエンジニアの間でも人気を博しました。
いわば「誰でもAIを始められるボード」として、多くの人の第一歩を支えた存在でした。
販売終了の噂は本当?公式のEOL情報を確認
「販売終了」という言葉が話題になったのは、NVIDIA公式サイトの「Jetson Product Lifecycle(製品ライフサイクル)」ページに掲載された情報がきっかけです。
そこには、Jetson Nanoの開発キットがすでに**「End of Life(販売終了)」**と明記されており、今後の在庫供給は終了すると発表されています。
一方で、産業・組込み用途向けの「Jetson Nanoモジュール」については、2027年1月まで供給予定と記載されています。
つまり、「開発者向けのボードは終了」「組込み向けモジュールは期限付きで継続」という状況です。
実際、国内外の販売店でも開発キット版は軒並み在庫切れ。通販サイトでも価格が高騰し、中古品が出回る状態になっています。
「在庫限りで終了」という段階に入っているのは間違いありません。
Jetson Nanoが販売終了となった主な理由
では、なぜJetson Nanoは販売終了となったのでしょうか。背景にはいくつかの明確な理由があります。
1. 世代交代による自然な製品移行
最も大きな理由は、世代交代です。
NVIDIAはAIエッジコンピューティング向けのラインアップを次世代アーキテクチャへと移行しており、性能・電力効率ともに大幅に進化しています。
Jetson Nanoは「Maxwell世代」ですが、その後に「Volta」「Ampere」世代のGPUを搭載したOrinシリーズが登場しました。
技術的な進歩が著しい分野であるため、旧モデルを長く残すメリットが薄くなったといえます。
2. ソフトウェアサポートの終了
Jetson Nanoが利用していた開発環境「JetPack 4」シリーズは、すでにサポート終了(EOL)を迎えています。
これにより、セキュリティアップデートや新機能対応が打ち切られ、最新のライブラリやAIフレームワークとの互換性が難しくなりました。
ハードウェア自体が動作しても、ソフトウェアの維持が難しくなったことで、製品としての寿命が実質的に尽きた形です。
3. 価格・供給面での課題
近年の半導体供給逼迫や価格変動も影響しています。
Jetson Nanoは手頃な価格が魅力でしたが、部品コストの上昇により、同じ価格帯での生産維持が難しくなったとみられます。
結果として、上位モデルへの移行を促す流れが強まったと考えられます。
4. 互換性と設計更新の限界
Jetsonシリーズは世代ごとにモジュール形状やピン配置が異なり、互換性維持には限界があります。
古い設計を長期間サポートし続けるよりも、新規設計へ集中する方が合理的だと判断された可能性があります。
後継モデル「Jetson Orin Nano」とは?
販売終了の流れの中で、注目を集めているのが**「Jetson Orin Nano」シリーズ**です。
名前に「Nano」と付きますが、これはJetson Nanoの正統な後継として位置づけられています。
Jetson Orin Nanoは、最新のAmpereアーキテクチャGPUを搭載し、最大1,024基のCUDAコアを持つ高性能仕様。
AI処理性能は旧Nanoの約80倍ともいわれ、より複雑なディープラーニングモデルやリアルタイム推論にも対応します。
CPUもCortex-A78AEを採用し、電力効率を維持しながら性能を大幅に向上。
また、JetPack 5シリーズを利用できるため、最新のUbuntuやTensorRT、DeepStreamといったAIフレームワークを安心して使えます。
つまり、Jetson Nanoが「AI開発の入門機」だったのに対し、Jetson Orin Nanoは「プロトタイピングから量産設計まで対応できる新世代プラットフォーム」へ進化しているのです。
旧NanoとJetson Orin Nanoの違いを簡単に整理
スペックを細かく比較するとキリがありませんが、主要な違いを簡単にまとめます。
- GPU世代:Maxwell → Ampere(AI性能は大幅に向上)
- CPU:Cortex-A57 → Cortex-A78AE
- メモリ帯域:25.6GB/s → 68GB/s
- ソフトウェア:JetPack 4系 → JetPack 5系
- 対応期間:2027年1月まで → 長期サポート予定
ただし、性能が上がった分、Jetson Orin Nanoはやや高価です。ホビー用途よりも、産業・教育・開発者向けの立ち位置にシフトしている印象があります。
それでも「長期的に使えるAIプラットフォーム」を求めるなら、間違いなく移行を検討すべきモデルといえるでしょう。
まだ買える?Jetson Nanoの入手方法と注意点
では、「もうJetson Nanoは手に入らないの?」という点について。
実際のところ、新品の開発キットはすでに公式ルートではほぼ在庫切れです。
一部の正規代理店や再販業者、海外通販サイトで在庫が残っているケースもありますが、価格は上昇傾向にあります。
中古市場でも取引が活発ですが、EOL製品であることを理解し、動作保証やサポートがない点には注意が必要です。
もしどうしてもJetson Nanoを入手したい場合は、以下の点を確認しておきましょう。
- 正規販売代理店の在庫状況を直接問い合わせる
- 保証期間や返品可否を事前に確認する
- ソフトウェアサポートが終了していることを理解した上で使う
- 量産や長期運用を前提とするならJetson Orin Nanoシリーズを検討する
「学習用」「実験用」として短期間使う分には今でも十分価値がありますが、ビジネス用途や研究開発の基盤として採用する場合はOrin系へ移行する方が安全です。
Jetson Nanoユーザーが今後考えるべきこと
Jetson Nanoの販売終了は、AI開発の流れが次の時代に進んでいることを示しています。
今後の選択肢としては大きく2つです。
- 既存Nanoを使い切る
現行のJetPack 4環境を維持しつつ、既存プロジェクトを完結させる。
ただし、セキュリティリスクや新規ライブラリ非対応の問題は残ります。 - Orinシリーズへ移行する
JetPack 5以降の新環境で、最新フレームワークや高精度AIモデルを扱えるようになります。
多少の設計変更やコスト増はありますが、長期的な安定性とサポート面で大きなメリットがあります。
AI技術の進化は早く、3〜4年で旧世代化するのが常。
Jetson Nanoの終了も「衰退」ではなく、「次の時代へのバトン渡し」と捉えるのが自然です。
Jetson Nano販売終了のまとめとこれから
Jetson Nanoが販売終了となったのは、技術革新・サポート終了・価格変動など、複数の要因が重なった結果です。
とはいえ、すぐに使えなくなるわけではなく、モジュールは2027年まで供給が続きます。
これからAIを学びたい、ロボット開発を始めたいという人は、「Jetson Orin Nano」や「Jetson Xavier NX」といった後継モデルに目を向けてみましょう。
性能・安定性・サポート体制の面で、確実に次のステージへ進化しています。
Jetson Nanoが築いた「誰でもAIに触れられる時代」は、Jetson Orin Nanoシリーズによってさらに広がっていくはずです。
販売終了は終わりではなく、新しい開発のスタート地点。
今だからこそ、次のJetsonを選び、未来のAIプロジェクトに備えておく時期なのかもしれません。
