かつて家庭の救急箱に必ずといっていいほど入っていた「新ホルム散」。きり傷やすり傷、靴ずれなどに使える白い粉の薬として、長年親しまれてきました。しかし現在では店頭から姿を消し、「販売終了」と表示されることが増えています。この記事では、新ホルム散がなぜ販売終了になったのか、そして代替品や後継薬はあるのかを詳しく解説します。
新ホルム散とはどんな薬だったのか
新ホルム散は、外用の殺菌消毒薬として昭和から平成にかけて長く販売されていた医薬品です。主成分はアクリノール水和物や酸化亜鉛などで、皮膚の殺菌・乾燥・保護を目的に使用されていました。粉を傷口に直接まぶすタイプで、しみることが少なく、子どもでも使いやすかったのが特徴です。
その用途はとても幅広く、「きり傷」「すり傷」「靴ずれ」「ただれ」「虫刺され後のかきこわし」など、家庭で起こるちょっとしたトラブルに重宝されてきました。医師の処方なしで購入できる第3類医薬品として、長年ドラッグストアで販売されていました。
新ホルム散が販売終了となった理由
現在、複数の販売サイトや医薬品データベースでは「新ホルム散は製造販売終了」と明記されています。では、なぜ多くの人に親しまれたこの薬が姿を消してしまったのでしょうか。公的に詳しい理由は発表されていませんが、いくつかの要因が考えられます。
1. 粉薬の需要が減った
新ホルム散のような粉末タイプの外用薬は、かつては主流でした。しかし、時代とともに「液体」「スプレー」「軟膏」などの扱いやすい製剤が普及し、粉をまぶす手間が敬遠されるようになりました。特に家庭での使用では、飛び散りやすく服につきやすい粉よりも、片手で簡単に塗れる軟膏タイプが好まれるようになったのです。
2. 衛生面・安全面での見直し
粉薬は飛散しやすいため、衛生面や安全性の管理が難しいという欠点もあります。粉を吸い込むリスクや、環境への付着などの懸念が指摘されるようになり、より清潔で扱いやすい液体タイプへと移行が進みました。
3. 原料・コスト・薬事制度の影響
医薬品の製造には厳しい品質管理と薬事承認の維持コストがかかります。販売数が減少すれば採算が合わなくなるため、製薬会社が生産終了を決断するのは自然な流れです。また、成分調達や製造ラインの維持が難しくなるケースもあります。
こうした要素が重なり、長年続いた新ホルム散は2020年代に正式に製造・販売終了となりました。
現在の傷薬の主流は液体・軟膏・スプレータイプ
新ホルム散のような粉状消毒薬がなくなった今、現代の傷薬はどうなっているのでしょうか。いま主流となっているのは、以下の3タイプです。
液体タイプの消毒薬
ヨードチンキ、オキシドール、マキロンなど、昔ながらの液体消毒薬は今も定番です。最近では色がつかず、刺激の少ないタイプも増えています。スプレー式のものも多く、外出先でも清潔に使えるのが魅力です。
軟膏タイプの抗菌薬
軽い傷口には、抗菌作用を持つ軟膏タイプの薬がよく使われます。皮膚を乾燥させず、保護膜のように覆ってくれるのが特徴です。乾燥しやすい粉薬とは違い、傷の湿潤環境を保ちやすいため、治りが早いとされています。
スプレー・ジェルタイプ
現代の家庭薬で人気が高いのが、スプレー式やジェル状の殺菌消毒剤です。手を汚さず均一に塗布でき、子どもでも使いやすいタイプが増えています。液体タイプよりも飛び散りにくく、衛生的な点が支持されています。
新ホルム散に似た粉薬はもう手に入らない？
「やっぱりあの粉の使い心地がよかった」「液体より粉のほうが清潔に感じる」といった声も少なくありません。しかし、現在は粉状の殺菌薬そのものが市場から姿を消しています。
かつて「キズドライ」など似たような粉薬も販売されていましたが、これもすでに製造終了。通販サイトでも「在庫なし」や「取扱終了」となっています。つまり、現在の市販品の中には、新ホルム散とまったく同じタイプの代替薬は存在しないのが現実です。
現代で代わりになるものを探すなら
完全に同じ粉タイプは入手困難ですが、目的別にみるといくつかの代替手段があります。
傷口を清潔に保つ目的なら
殺菌作用のある消毒液やスプレー式消毒薬が最も近い役割を果たします。代表的なものはポビドンヨード系の「イソジン」や、低刺激タイプの「マキロン」など。どちらも薬局で手軽に購入できます。
炎症や化膿を防ぎたい場合
抗菌成分を含む軟膏タイプが有効です。「オロナインH軟膏」「テラマイシン軟膏」など、医師の診察なしでも購入できるものが多数あります。軟膏は粉薬に比べて皮膚の乾燥を防ぎ、治りを早める効果が期待できます。
薬を使わず自然治癒を重視するなら
最近は「軽いすり傷なら水でしっかり洗うだけでOK」とする考え方も一般的になっています。水道水で十分に汚れを洗い流し、清潔なガーゼや絆創膏で覆って保護する方法が推奨されています。消毒しすぎないほうが自然治癒力を活かせるという研究もあります。
新ホルム散が残した“粉薬文化”の記憶
新ホルム散の販売終了は、単なる一商品の終売ではなく、時代の流れを象徴する出来事でもあります。かつては粉薬が主流で、家族の誰かが転んだりケガをしたとき、「白い粉をパラリとかける」という光景がどの家庭にもありました。
粉薬は傷を乾かし、白く覆って保護する感覚があり、「薬をつけた」という安心感を与えてくれたものです。その独特の手触りや香り、黄色っぽい色を覚えている人も多いでしょう。新ホルム散は、そんな“昭和の家庭の定番薬”のひとつでした。
しかし、医療や生活様式が変わり、「清潔さ」「即効性」「使いやすさ」を重視する現代において、粉薬という形態は役目を終えつつあります。便利さの裏で、ひとつの文化が静かに幕を閉じたともいえます。
新ホルム散の代替品はある？販売終了の背景を踏まえて
改めて整理すると、新ホルム散は正式に製造販売を終了しており、現時点で同様の粉状消毒薬はほとんど流通していません。その背景には、使いやすさ・衛生性・需要の減少・製造コストなど複数の要因があります。
代替手段としては、液体や軟膏タイプの消毒薬、スプレー式製剤、または水洗いによる自然治癒法などが現代のスタンダードです。粉薬特有の乾燥感や使用感を完全に再現することは難しいものの、目的である「消毒・保護・治癒促進」はこれらで十分にカバーできます。
新ホルム散はもう手に入りませんが、その存在は多くの人の記憶に残り続けています。懐かしさを感じると同時に、今の時代に合ったケア方法を知ることが、私たちの暮らしをより安全で快適なものにしてくれるでしょう。
