イヤホン選びで「音の深み」や「余韻の美しさ」を重視する人にとって、finalの新モデル「final s5000」は非常に気になる存在だと思います。僕自身も発売直後から実際に使い込み、その音の「柔らかさ」と「濃密さ」に驚かされた一人です。この記事では、final s5000の高音質の秘密と、同シリーズの他モデルとの違いをじっくり掘り下げていきます。
真鍮ハウジングが生む、豊かな響きの理由
final s5000の最大の特徴は、ハウジングに真鍮(ブラス)を採用している点です。真鍮といえば、トランペットやサックスなどにも使われる素材。金属としては柔らかく、倍音が豊かで、音に丸みや艶をもたらします。この素材をイヤホンに使うことで、単なるクリアさではなく、「音が空間で呼吸するような響き」が再現されています。
さらに、内部には「トーンチャンバーシステム」という独自構造が採用されています。これは、ドライバーから出た音が最も自然に響く空間を設計する技術。結果として、単なるBAドライバーの高解像度だけでなく、アナログ的で柔らかい余韻を感じる音作りが実現されています。
初めて聴いたときに思ったのは、「音が消えた後の静けさまで美しい」ということ。ギターの弦が揺れる瞬間から消えるまで、すべての音が滑らかにつながるような印象を受けました。
実際の音質 — 柔らかく濃密、そして自然
final s5000の音は一言で言うと「しっとり系」。ドライで情報量を詰め込むタイプではなく、どこか温度を感じる音です。特に中域の厚みと高域の伸びが印象的で、女性ボーカルの声や弦楽器の響きが非常に自然に聴こえます。
高音域はシャープすぎず、滑らか。耳に刺さらないのに、細かいニュアンスはしっかりと伝わります。ピアノの鍵盤のアタックや、アコースティックギターの指の摩擦音までがリアルに再現されるのに、全体として丸く、穏やかな響きを保っているのが面白いところです。
低域は控えめですが、量感よりも「沈み込み」と「余韻」で聴かせるタイプ。ベースラインが音楽を支えるように自然に鳴り、無理に主張してこないのが好印象でした。クラシック、ジャズ、アコースティックなど、静かに音を味わうジャンルで特に映える音だと感じます。
音場と定位感 — 目の前に楽器があるような親密さ
final s5000の音場は、広大ではなく「適度に近い」タイプ。コンサートホールのような距離感ではなく、スタジオの近距離リスニングに近い感覚です。ボーカルがほんの少し前に出て、楽器がその後ろで包み込むように配置される。そんな自然で親密な定位が心地よく感じます。
特に印象的なのは、空間の“奥行き”よりも“厚み”で音を表現しているところ。1音1音が密度を持ち、余韻が滑らかにつながるため、全体の音楽の「まとまり」が良い。音が分離しすぎてバラバラにならず、一つの空気感として感じられるのがfinal s5000の魅力です。
比較してわかる、S4000やE5000との違い
S4000との違い
同シリーズのS4000はステンレス筐体を採用しており、音の立ち上がりが速く、シャープでクリアな印象があります。一方で、final s5000は真鍮の響きによる柔らかさと厚みが特徴。どちらが優れているというより、「どんな音楽をどう聴きたいか」で選ぶべきだと感じました。
S4000はエレクトロニカやロックなど、リズムの輪郭をはっきり感じたい人に向いています。対してfinal s5000は、ボーカルや弦楽器の温かみを重視する人にぴったりです。音の立体感や深みではfinal s5000のほうが一歩上。真鍮ならではの“響きの色”を感じたいならこちらがおすすめです。
E5000との違い
E5000はダイナミックドライバーを採用し、よりナチュラルで広がりのある音場を持ちます。低音の量感も豊かで、リスニング全般に向いた万能型。一方、final s5000はBAドライバーらしい解像度に加えて、真鍮の質感が加わり、音の艶や余韻がより濃密。E5000が「包み込む音」だとすれば、final s5000は「染み渡る音」。ジャンルによっては好みが分かれるかもしれませんが、ボーカルやピアノ中心の楽曲ではfinal s5000のほうが印象的でした。
A5000との違い
A5000は同じfinalの人気モデルで、バランスの良さと明るい音色が魅力。どんなジャンルでも心地よく聴ける一方で、final s5000は「音楽を味わう」方向に振り切ったモデルです。A5000が日常使いのイヤホンだとすれば、final s5000は“音楽を静かに楽しむための一品”。夜のリスニングや、コーヒー片手にじっくり音に浸る時間に最適です。
聴いて感じた「高音質の秘密」
final s5000を聴いてまず感じるのは、「音の濃度が高い」ということ。情報量というよりも、一音一音の“質感”が濃い。これはBAドライバーを2基搭載しながらも、真鍮ハウジングとトーンチャンバーが音に「息づかい」を与えているからだと思います。
他のBAイヤホンのように分析的すぎず、それでいて曖昧でもない。その絶妙なバランスが、音楽を自然に聴かせてくれる要因です。BA型の高解像度と真鍮の柔らかさ、この組み合わせがfinal s5000の最大の“秘密”と言えるでしょう。
使用感とデザインの印象
デザインは非常にシンプルで、真鍮の光沢が高級感を演出しています。重量はやや感じるものの、装着バランスが良く、長時間の使用でも違和感は少ないです。イヤーピースの選択で音の印象が変わるので、自分の耳に合うサイズを見つけると音の透明感がぐっと増します。
ケーブルは着脱可能で、リケーブルによる音の変化も楽しめます。特に銀メッキや高純度銅線ケーブルに変えると、高域の伸びや中域の透明感がさらに際立ちました。
final s5000はどんな人におすすめか
このイヤホンは、「音の美しさ」や「響きの余韻」を大切にしたい人に向いています。派手な低音や刺激的な高音を求める人には物足りないかもしれませんが、音楽の“表情”を感じたい人にはこれ以上ない選択です。
たとえば、
- 静かな空間でじっくり音楽を味わいたい人
- ボーカル中心の曲をよく聴く人
- 自然で心地よい音のつながりを求める人
こうしたリスナーにとって、final s5000はまさに理想的な相棒になるはずです。
まとめ:final s5000を実際に使ってわかったこと
final s5000は、スペックや価格で語れるイヤホンではありません。その真価は、音が響き、消えていく“その瞬間”にあります。真鍮ハウジングによる豊かな倍音、トーンチャンバーが描く自然な音の空間、そしてBAドライバーの繊細な描写力。これらが一体となって、音楽を「感じる時間」を作り出してくれます。
finalの中でも特に音の個性が強く、S4000やA5000、E5000と比べても際立つ存在。聴くたびに音の奥行きを発見できる、そんな奥深さがあります。
イヤホン選びに迷ったら、一度このfinal s5000を手に取ってみてください。音楽との距離が、ほんの少し近づくはずです。
