最近、「精肉店で牛タンが見つからない」「いつも売り切れている」と感じたことはありませんか?焼肉でも人気の高い部位なのに、スーパーや精肉店でなかなか見かけない理由には、実は深い事情があります。今回は、牛タンが売っていない背景を、供給の仕組みから価格の問題、さらには今後の見通しまで詳しく掘り下げていきます。
牛タンが精肉店に並ばない最大の理由は「そもそも量が少ない」
まず押さえておきたいのは、牛タンそのものの“絶対量が少ない”という事実です。牛一頭から取れるタンの量はおよそ1本、可食部にすると約1キロ程度しかありません。しかも、焼肉で使える柔らかい部分(タン元・タン中)は全体の半分ほど。つまり、牛1頭から焼肉用に使えるタンはわずか500グラム前後という計算になります。
このため、需要に対して供給が圧倒的に少なく、そもそも市場に出回る量が限られているのです。特に「国産牛タン」となるとさらに希少で、国内で流通している牛タン全体のうち、国産品はわずか数%程度と言われています。精肉店の仕入れ担当が「欲しくても入荷枠がない」という状況も珍しくありません。
高級焼肉店への優先供給で、一般の精肉店に回らない
もう一つの大きな要因が「流通の優先順位」です。牛タンは人気が高く、仕入れ値も高額。だからこそ、取引の強い焼肉専門店や業務用ルートに優先的に回される傾向があります。
精肉の卸売市場では、希少部位である牛タンは「高級焼肉店・ホテル・飲食チェーン」などにまず確保され、残ったわずかな量が一般の精肉店へと流れる構造になっています。つまり、個人商店や中小の精肉店に回ってくる分は極めて少ないのです。
さらに、タンは「一頭買い」を行う大規模な精肉業者でないと安定的に仕入れにくい部位でもあります。部分的な取引は割高になりやすく、小さな店舗では採算が取れません。そのため、「仕入れても利益が出にくい」「売れ残るリスクが高い」という理由で取り扱い自体を控える店も多いのです。
取り扱いが難しい部位という現場事情
牛タンは見た目以上に“扱いが難しい肉”でもあります。脂肪が多く鮮度が落ちやすいため、保存・加工の管理がシビア。通常の赤身肉のようにブロックで仕入れてそのまま店頭に出すことができず、皮むき・スライス・冷凍などの下処理工程が必要になります。
これらの加工には専用の機材や技術が必要で、個人経営の精肉店では対応が難しいケースもあります。仮に仕入れたとしても、数日で鮮度が落ちるため売り切れなければロスになります。結果として、扱いやすいモモ肉やロースなどに比べて、どうしても優先順位が下がってしまうのです。
価格高騰と円安が拍車をかけている
ここ数年の牛タンの“高騰”も、店頭から姿を消す大きな原因です。特に輸入品の価格上昇が顕著で、アメリカ産やオーストラリア産の冷凍牛タンの卸値は、2020年から2022年にかけて約1.6倍に上昇しました。円安や物流コストの増加、世界的な牛肉需要の高まりが重なり、輸入コストが大きく上がっています。
国内生産に目を向けても、飼料価格や人件費の高騰で、国産牛タンの原価は高止まりのまま。100グラムあたり1,000円以上することもあり、一般家庭向けの精肉店が気軽に仕入れられる価格帯ではありません。
こうしたコスト構造の変化が、「精肉店で見かけない」「売っても高くて買われない」という悪循環を生んでいます。
「牛タン人気」が逆に入手困難を招いている?
皮肉なことに、牛タンの人気の高さ自体が供給不足を助長しています。焼肉チェーンや居酒屋、テイクアウト専門店などが牛タンメニューを積極展開したことで、外食産業からの需要が急増。家庭用よりも業務用が優先される状況になりました。
また、家庭で焼肉を楽しむ人が増えたことで、スーパーでの牛タン需要も急上昇。しかし、限られた供給量の中で需要が増えると、当然価格が上がり、販売店も在庫を抱えるリスクを避けようとします。結果として、「精肉店で見かけない」「売り切れが続く」という現象が発生しています。
部位による違いと価格のギャップ
牛タンと一口に言っても、実は部位によって用途や価格が大きく異なります。
・タン元(根元部分)…脂が乗って柔らかく、焼肉用の高級部位。
・タン中(中央部分)…焼肉店で“上タン”として出されることが多い。
・タン先(先端部分)…硬めで煮込みやシチュー向き。
このうち、人気の高い「タン元」や「タン中」は特に希少で、国産だと100グラムあたり1,500円を超えることも。仕入れコストが高いため、一般の精肉店では割に合わず、売れ残ると赤字になるリスクがあります。結果的に「売るより仕入れない方が安全」という判断がなされるのです。
実際の販売状況と季節的な偏り
精肉店やスーパーでは、牛タンが「特定の時期だけ」並ぶケースもあります。たとえば年末年始やお盆など、家庭で焼肉を楽しむ機会が増える時期は、一時的に入荷が増える傾向にあります。しかし、その時期を逃すと在庫はすぐに消え、しばらく店頭から姿を消すことも珍しくありません。
また、店舗によっては「仕入れ日限定」で販売するところもあります。週末のみに入荷する精肉店もあり、「入荷日を知っている常連しか買えない」といった現象も起きています。
どうしても牛タンを買いたいときの選択肢
「それでも牛タンが食べたい!」という方は、次のような方法を試すのがおすすめです。
・通販サイトで冷凍牛タンを購入する
・焼肉専門店のオンラインショップを利用する
・国産ブランド牛を扱う高級スーパーをチェックする
・精肉店に予約を依頼する
通販では、国産・輸入いずれも多くの種類が選べ、部位やカット厚も指定しやすいのが利点です。精肉店でも「事前予約すれば取り寄せできる」というケースがあります。特にお盆や年末年始前などは、早めに問い合わせるのがおすすめです。
今後の牛タン供給はどうなる?
今後も、牛タンの供給が劇的に増える見通しは立っていません。畜産業では生産コストの上昇が続いており、特に国産牛は飼料の価格や人手不足の影響を受けています。輸入に頼る日本の食肉市場では、為替や国際需給に大きく左右されるため、安定的に供給するのは難しい状況です。
ただし、冷凍技術や加工流通の進化により、通販や業務用ルートを経由した「家庭向け牛タン」の入手しやすさは少しずつ改善しています。精肉店で常に並ぶ日は遠いかもしれませんが、ネット通販や専門店を活用すれば、以前よりは選択肢が増えています。
精肉店で牛タンが売ってないのはなぜ?供給不足や販売状況を調査
精肉店で牛タンが売っていない背景には、以下のような複数の要因が重なっています。
・一頭から取れる量が非常に少ない
・高級店や業務用への優先供給
・加工・保存の手間が大きい
・価格高騰と円安による原価上昇
・需要過多による供給不足
つまり、「人気なのに少ない」という矛盾が、精肉店で牛タンが売っていない最大の理由です。どうしても食べたい場合は、予約販売や通販を活用して探すのが現実的な方法でしょう。
希少な国産牛タンは、まさに“出会えたらラッキーな肉”。精肉店で見かけたときは、迷わず手に取っておく価値があります。
