「痔の薬って、どれを選べばいいの？」
ドラッグストアでずらっと並ぶ軟膏や坐剤を前に、迷ってしまった経験はありませんか。痔といっても種類や症状はさまざまで、合う薬も異なります。ここでは、薬剤師の視点から「市販薬」と「処方薬」をわかりやすく比較しながら、痔の薬の選び方を解説します。
そもそも「痔」ってどんな病気？
痔は、肛門の血流障害や炎症が原因で起こる身近な病気です。
主な種類は3つあります。
- いぼ痔（痔核）
肛門の血管がうっ血して膨らんだ状態。内側にできる「内痔核」と、外側にできる「外痔核」があります。 - 切れ痔（裂肛）
排便のときに肛門が切れてしまうタイプ。痛みが強く、出血することも。 - 痔ろう（あな痔）
肛門の奥で炎症が起き、膿の通り道ができる状態。これは市販薬では治らず、外科的治療が必要になります。
つまり、すべての痔が同じ薬で治るわけではなく、自分の症状に合ったタイプを見極めることが大切です。
市販の痔の薬：軽度～中等度の症状に使える
市販薬でできること
市販の痔の薬は、軽い痛み・かゆみ・出血などを抑えるために作られています。
主に「いぼ痔」や「切れ痔」の初期段階で使われます。忙しくて病院に行けないときの一時的なケアとしても便利です。
ただし、「いぼが外に出て戻らない」「膿が出る」「強い痛みや大量の出血がある」場合は、市販薬では限界があります。こうした症状は医師による診断が必要です。
市販薬の種類と使い方
市販薬には、症状や部位に合わせていくつかのタイプがあります。
- 軟膏タイプ：外側の痔に塗る。かゆみ・痛みに。
- 坐剤タイプ：肛門の内側に挿入。内痔核に。
- 注入軟膏：内と外の両方に対応。使いやすく人気。
- 内服薬：血流改善や炎症抑制を助ける補助的な薬。
どれを選ぶかは「痛みの場所」と「症状の強さ」で決まります。たとえば、外側の違和感なら軟膏、肛門内の痛みや出血なら坐剤や注入タイプが向いています。
成分で見る市販薬の特徴
製品ごとに配合成分が違うため、目的に合うものを選ぶことが大切です。
- ステロイド成分（プレドニゾロンなど）
炎症をすばやく抑えるが、長期使用は避けたい。短期間の使用向け。 - 局所麻酔成分（リドカインなど）
痛みやかゆみを鎮める。 - 抗炎症成分（グリチルレチン酸など）
ステロイドに抵抗がある人向け。 - 止血・血流改善成分（アラントイン、ビタミンEなど）
出血を抑え、修復を促す。
軽症ならステロイドなしのマイルドな薬でも十分。痛みや腫れが強いときは、短期間だけステロイド入りを使うなど、使い分けがポイントです。
市販薬の注意点
痔の薬は「症状を和らげる」目的であり、根本的に治すものではありません。
2週間〜1か月使っても改善しない場合は、必ず病院で診てもらいましょう。
また、ステロイド入りを長く使うと皮膚が薄くなったり、感染を起こしたりするおそれがあります。自己判断で使い続けるのは避けてください。
処方薬（医療用医薬品）：症状に合わせた専門治療
処方薬の特徴
病院で処方される痔の薬は、症状のタイプや程度に合わせて細かく選ばれます。
同じ「軟膏」でも、市販薬より成分が濃く、効果が高いものが多いです。
例えば、
- 強力ポステリザン軟膏：炎症・出血・腫れに総合的に作用。
- ヘモレックス軟膏：抗菌・止血成分入り。
- ヘモナーゼ配合錠：内服で血流を改善し、炎症を抑える。
外用薬と内服薬を組み合わせて、痔核や切れ痔の根本的な改善を狙う治療も一般的です。
医師が見極める「処方薬の出番」
処方薬が必要になるのは、次のようなケースです。
- 出血が長引く、または繰り返す
- いぼが脱出して戻らない
- 痛みが強く、日常生活に支障がある
- 痔ろうや膿がある
- 市販薬を使っても2〜3週間で改善しない
こうした場合は、専門の肛門科を受診しましょう。医師が痔の種類と進行度を確認し、薬物治療か、硬化療法・手術かを判断してくれます。
痔の薬の選び方：症状別のおすすめアプローチ
いぼ痔（痔核）の場合
軽度なら注入軟膏や坐剤を使用し、痛みや腫れを抑えます。出血が多い場合は止血・血流改善成分入りを選びましょう。
脱出や強い痛みがある場合は、医療機関での処方薬または外科的治療が必要です。
切れ痔（裂肛）の場合
排便時の痛みがつらい場合は、軟膏タイプで患部を保護し、炎症を抑えます。
同時に、便を柔らかく保つことも大切。整腸剤や食物繊維、ぬるま湯での座浴も効果的です。
血栓性外痔核の痛みが強い場合
急に硬いしこりができて激痛を感じるときは、血栓（血の塊）ができている可能性があります。
冷却と安静が基本ですが、早期に受診して医師の処置を受けたほうが回復が早いです。
痔の再発を防ぐ生活習慣のポイント
薬で症状が落ち着いても、生活習慣を変えなければ再発しやすいのが痔の特徴です。
次の習慣を意識すると、改善と予防の両方につながります。
- 便通を整える：便秘や下痢を防ぎ、いきまない。
- 長時間座らない：デスクワーク中は時々立ち上がって血流を促す。
- 肛門を清潔に保つ：排便後はぬるま湯でやさしく洗う。
- 身体を冷やさない：下半身の冷えは血流を悪化させる。
- バランスのよい食事：水分・野菜・発酵食品を意識。
薬はあくまでサポート。生活改善と併せて使うことで、痔の再発を防ぐ効果が高まります。
まとめ：痔の薬はどれがいい？症状に合わせて正しく選ぼう
痔の薬選びで大切なのは、「どのタイプの痔か」「どのくらいの症状か」を見極めることです。
軽い痛みやかゆみなら市販薬で対応できますが、出血や脱出が続くようなら迷わず病院へ。
市販薬は一時的なケア、処方薬は根本的な治療——この違いを理解しておくと安心です。
そして、薬に頼りすぎず、日常のケアや便通管理を怠らないことが何よりの予防になります。
自分に合った痔の薬を正しく選び、早めの対処で快適な毎日を取り戻しましょう。
