最近、VRヘッドセット「PICO4」が家電量販店やネット通販で見かけなくなったと感じた人も多いのではないでしょうか。実際、公式オンラインストアや各ショップで「販売終了」「在庫なし」と表示されるケースが増えており、実質的にPICO4は販売を終えたとみられています。なぜこの人気VR機器が販売終了に至ったのか。背景にはVR市場全体の変化や、メーカーの次世代戦略が大きく関係しています。この記事では、PICO4が販売終了した理由を探りつつ、VR業界の今と次世代モデルとの違いをわかりやすく解説します。
PICO4とは?特徴と登場時の位置づけ
PICO4は、中国のテクノロジー企業ByteDance傘下のブランド「PICO」が2022年に発売したスタンドアロン型VRヘッドセットです。Meta Quest 2のライバルとして注目され、軽量なデザインと高解像度のディスプレイ、手頃な価格設定で一時は話題になりました。
本体には「Snapdragon XR2」チップが搭載され、片目あたり2160×2160の高精細パネル、最大90Hzのリフレッシュレート、そして装着時のバランスを重視した後頭部バッテリー構造が特徴です。ケーブルレスで動作するためPCなしでVR体験が可能で、初心者にも扱いやすい設計でした。
それでも、2023年頃から販売数が伸び悩み、2024年以降は多くの店舗で取扱いが終了。在庫のみの販売が続いていました。その裏には、単なる売上不振だけではない、業界全体の変化が見え隠れしています。
PICO4が販売終了した理由① 販売不振と採算性の問題
まず大きな要因として挙げられるのが「販売実績の低迷」です。
発売当初は注目を集めたものの、世界的に見ると販売台数が想定を大きく下回ったとされています。報道によると、PICOはPICO4の販売目標を100万台以上に設定していたものの、実際には半分にも届かず、生産台数を削減せざるを得なかったといわれています。
VRヘッドセット市場は価格競争が激しく、性能面では優れていても採算が取りにくい構造です。PICO4も本体価格を抑えるためにハードウェアコストを吸収しており、1台あたり赤字だったという分析も出ています。利益が出にくい中で販売が伸び悩めば、次第に事業継続の判断が難しくなるのは自然な流れでしょう。
PICO4が販売終了した理由② ソフトウェア・エコシステムの弱さ
VR機器はハードだけでなく、コンテンツの充実度が重要です。Meta Quest 2シリーズが成功しているのは、豊富なアプリやゲーム、開発者支援体制によるエコシステムが整っているからです。
一方のPICO4は、ハードの完成度こそ高いものの、対応アプリの数や独占タイトルの魅力で劣勢でした。特に日本市場ではコンテンツラインナップが限られ、ユーザーが継続的に利用したくなる環境を作り切れなかったことが課題となりました。
さらに、PICOのプラットフォームはまだ成熟しておらず、開発者側の参入ハードルも高かったと指摘されています。この点は、ソフト面の充実に長年投資してきたMetaとの大きな差です。
PICO4が販売終了した理由③ VR市場の再編と競争激化
VR市場全体の動きも無視できません。
一時は「メタバース元年」と呼ばれるほどの盛り上がりを見せたVR業界ですが、実際の消費者需要は期待ほど急拡大せず、メーカー各社が路線を見直す流れが出ています。
Metaが「Quest 3」でMR(複合現実)機能を強化し、Appleが「Vision Pro」で高価格帯市場を開拓する中、PICOの立ち位置は中間層向けという難しいポジションでした。価格面では魅力的でも、性能やブランド力では競合に劣り、結果的にシェアを奪われた格好です。
また、VR機器の製造コストは高止まりしており、廉価モデルで市場を広げる戦略が必ずしも成功していません。市場の成熟が進むなかで、PICO4のような純VR機器の需要は限定的になりつつあり、メーカーとしても次の一手が求められていました。
PICO4が販売終了した理由④ 次世代機への世代交代
販売終了の背景には、明確な“次世代モデル”への移行もあります。
PICOは2024年に新機種「PICO 4 Ultra」を発表し、性能・機能の大幅な進化を打ち出しました。
新モデルでは最新チップ「Snapdragon XR2 Gen2」を搭載し、GPU性能が従来比で約2.5倍に向上。カラーパススルーによるMR機能も強化され、VR空間と現実の融合体験が可能になっています。さらに、Wi-Fi 7対応やバッテリー持続時間の改善など、ハード面での完成度が大きく上がりました。
これにより、PICO4は「旧世代モデル」として役割を終えたと考えられます。メーカーとしてもリソースを次世代機に集中させる方が合理的であり、PICO4の販売を終了して新製品へ切り替えたのは自然な流れです。
VR業界の最新動向:ハードから体験重視の時代へ
近年のVR業界では、単なる「機器の性能競争」から「体験価値の競争」へと軸が移りつつあります。
Metaはコミュニティ性を強化し、Appleは高品質な映像体験を武器にハイエンド市場を開拓。ソニーのPlayStation VR2も家庭用ゲーム機との連携を強みとしています。
こうした中で、PICOのように“ハード単体”で勝負する企業は不利になりやすい構造です。特に日本市場では、コンテンツのローカライズやブランド認知が重要であり、その点でPICOはまだ発展途上でした。
また、VRからMR・XR(拡張現実)へと進化する流れが加速しており、「現実と仮想の融合」をどれだけ自然に体験できるかが鍵になっています。次世代モデルPICO 4 Ultraは、このトレンドに合わせたMR対応機として再スタートを切った形です。
PICO4をめぐるユーザーの反応と今後の行方
PICO4ユーザーの間では、「軽くて装着感が良い」「映像が綺麗」といった評価が根強く、今でも中古市場で一定の人気があります。一方で、公式サポートやアップデートの頻度が減りつつあるため、長期的な利用には注意が必要です。
これから新たにVR機器を検討する人にとっては、次の選択肢として「PICO 4 Ultra」や「Meta Quest 3」が候補になります。前者はMR性能に優れ、後者はコンテンツの豊富さが魅力です。どちらを選ぶかは、何を重視するかによって変わるでしょう。
また、中古のPICO4を購入する場合は、バッテリー劣化や保証の有無を確認することが大切です。中古品は価格的なメリットがありますが、サポートが受けられないリスクもあります。
PICO4販売終了が示すVR業界の転換点
PICO4の販売終了は、単なる一製品の終息ではなく、VR市場全体が次の段階へ進んでいるサインとも言えます。
かつてのVRブームが落ち着き、今は「より現実に近い没入体験」や「現実と融合するMR体験」へと流れがシフトしています。ハードの性能だけでは差別化できない時代になり、プラットフォーム・コンテンツ・体験価値の総合力が問われています。
その中で、PICO4はVR黎明期を支えた存在として一定の役割を果たしました。次世代機の登場によって、その系譜はさらに進化し、XR時代の新しい形へとつながっていくでしょう。
まとめ:PICO4が販売終了した理由とこれからのVRの形
PICO4が販売終了した理由は、
- 売上の伸び悩みと採算性の課題
- ソフトウェアやコンテンツの弱さ
- VR市場の成熟と競争激化
- 次世代機PICO 4 Ultraへの移行
といった複合的な要因が絡んでいます。
ハードとしての完成度は高かったものの、時代の流れがVRからMR・XRへ移りつつある中で、PICO4は世代交代の波に押された形です。
今後は「どんな体験ができるか」「どんな世界とつながれるか」が重視される時代。VRの進化は止まっておらず、PICO4の後継機がその流れをどう加速させるかが注目されています。
PICO4販売終了のニュースは、VRが次のフェーズに入ったことを象徴する出来事なのかもしれません。
