FiiOが送り出した平面磁界型ヘッドホン「fiio ft5」。オーディオ好きの間では「この価格でこの完成度？」と話題になっています。この記事では、実際の使用感や音質、装着感、そして他の人気機種との比較を交えながら、その魅力と欠点を正直に語ります。
fiio ft5とは？— FiiO初の平面磁界ヘッドホン
FiiOといえばポータブルアンプやDAPで有名な中国メーカー。そんな同社が満を持して発表したのが「fiio ft5」です。これがFiiO初の平面磁界ドライバー採用モデルであり、同価格帯では異例の90mm大口径ドライバーを搭載しています。
オープン型構造による開放感のある音場と、マグネシウム合金の軽量かつ高剛性ボディ。付属品も豪華で、3.5mm・4.4mm・6.3mm・XLRのプラグがすべて付属します。スエードとレザー、2種類のイヤーパッドを交換できる点も特徴です。
音質レビュー：高解像・低歪み・温かみのあるサウンド
解像度とレンジの広さ
fiio ft5の音の第一印象は「情報量が多く、滑らか」。平面磁界ドライバーらしい緻密な描写力を持ちながら、刺激的になりすぎない自然な音の流れが印象的です。音の粒立ちが細かく、ボーカルや弦の倍音まで丁寧に再現されます。
周波数特性は7Hz〜40kHz。スペック上もハイレゾ再生に十分な帯域で、音場は横にも縦にも広がりを感じます。オープン型ならではの空気感があり、特にクラシックやアコースティック系の楽曲では立体感が際立ちます。
低音域：量感とキレのバランス
低域はしっかりとした厚みがありながら、平面磁界特有のレスポンスの速さで膨らみすぎません。ベースラインの立ち上がりが早く、キックドラムの輪郭も明瞭。重低音がズシンと響くというよりは、自然な弾力を伴った締まりのある低音です。
「やや暖色寄り」と感じる人もいるかもしれませんが、それが心地よい温度感につながっています。冷たく分析的なサウンドよりも、音楽的な厚みを楽しみたいリスナーに向いています。
中音域：ボーカルの艶と定位の良さ
中域は非常に滑らかで、ボーカルやピアノが前に出すぎず、それでいて存在感があります。音の分離感が良いため、楽曲全体の構造が見通しやすいのもfiio ft5の魅力です。
スエードパッドを使うと中域がふくよかに、レザーパッドではやや明瞭でクールな印象に変化します。ジャンルや好みに応じて音のキャラクターを変えられる柔軟性は嬉しいポイントです。
高音域：刺激を抑えた繊細な伸び
高域は刺さることなく、滑らかに伸びます。シンバルやストリングスの響きが自然で、余韻の描写も丁寧。レザーパッドを使うと少し輝きが増し、よりクリアな印象になります。
全体としては高域の情報量が豊富ながらも、聴き疲れしにくいバランス。日常使いから長時間リスニングまで快適です。
音場と定位感—Sennheiser HD600クラスを超える広がり
fiio ft5はオープン型らしい開放感を持ち、音場の広さはSennheiser HD600やFidelio X3などの中堅クラスを凌駕するとの声もあります。特にライブ音源では、ステージの奥行きや観客との距離感がリアルに再現されます。
定位も優秀で、左右だけでなく上下方向の位置感まで感じられます。ゲームや映画など、立体音響を楽しむ用途にも相性が良いヘッドホンです。
デザイン・ビルドクオリティ
fiio ft5の外観は高級感があります。マグネシウム-アルミニウム合金フレームを採用し、剛性と軽さを両立。ヘッドバンドはサスペンション構造で、頭頂部への圧力を分散します。
デザインはシンプルながら、細部の仕上げが丁寧。ケーブルも編み込み式で取り回しが良く、長期使用を見越した作り込みが感じられます。
装着感と使用感
重量は約456gとスペック上は重めですが、装着バランスが良いため意外と軽く感じます。側圧は適度で、耳全体を包み込むような感覚。長時間装着しても痛くなりにくい設計です。
また、スエードパッドは通気性に優れ、レザーパッドは密閉性が高く低音を強調。気分や季節に応じて交換できるのは実用的です。開放型ながらも、装着感と使い勝手は上位モデルに匹敵します。
駆動性とアンプの相性
fiio ft5は36Ωという低インピーダンスで、ポータブルアンプやDAPでも十分に鳴らせます。ただし、真価を発揮するには一定の出力を持つ機器との組み合わせが望ましいです。特に4.4mmバランス接続では音の厚みと定位が一段と明瞭になります。
スマートフォン直挿しでも音は出ますが、DACやポータブルアンプを使うと音場の広さやダイナミクスが格段に向上。fiio ft5製DAP（M11Sなど）との相性も良好です。
fiio ft5の欠点と注意点
どんな優れた機種にも弱点はあります。fiio ft5で指摘されるのは以下の点です。
- 重量がややあるため、長時間使用で首への負担を感じる場合がある
- 開放型なので、外音を遮断できず、外出先での使用には不向き
- 音が暖色寄りで、モニターライクなフラット音を好む人にはやや柔らかく感じられる
- DACやアンプを使わないと音の厚みが出にくい
これらは用途や好みによっては問題にならない場合も多いですが、購入前に理解しておくと後悔しません。
総評：価格を超えた完成度を誇る「音楽的」ヘッドホン
fiio ft5は約5万円前後という価格ながら、音質・デザイン・付属品のすべてにおいてクラスを超えた完成度を見せます。特に平面磁界ドライバーらしい立ち上がりの速さと、音楽的な温かみの両立は見事。
中低域の厚みと柔らかさが特徴的で、リラックスして音楽を楽しみたいリスナーにぴったりです。一方、モニター的な分析音を求める人には少し穏やかすぎるかもしれません。
とはいえ、FiiOが初めて手がけた平面磁界ヘッドホンとしては完成度が非常に高く、同価格帯では圧倒的なコストパフォーマンスを誇ります。初めてのプラナーヘッドホンとしても、上位機種へのステップとしてもおすすめできる一台です。
fiio ft5のレビュー評価まとめ
改めてまとめると、fiio ft5の魅力は以下の通りです。
- 高解像度かつ暖かみのある音
- 広い音場と優れた定位感
- 高級感あるビルドクオリティ
- 豊富な付属品とパッド交換の自由度
- コストパフォーマンスの高さ
一方で、重量や外音遮断性の低さなど、用途によっては不便な面もあります。しかし、純粋に「音楽を楽しむヘッドホン」として見れば、fiio ft5は間違いなく魅力的な選択肢です。
fiio ft5は、FiiOの新たな挑戦を象徴するモデル。平面磁界の繊細さと開放型の心地よさを両立したこのヘッドホンは、音楽を“聴く”時間を特別なひとときに変えてくれます。
ヘッドホン選びに迷っている人は、ぜひ一度この「fiio ft5」を体験してみてください。
