FiiOの最新フラッグシップ・ヘッドホン「Fiio FT7」。
前作FT5からの進化が話題を呼び、「音質が大幅に改善された」との声も多く見られます。
今回は実機を中心に、そのサウンドの特徴や装着感、同価格帯モデルとの違いまで徹底的に掘り下げていきます。
Fiio FT7とは?大型平面磁界ドライバー搭載の新世代モデル
Fiio FT7は2025年に登場したオープン型の平面磁界ヘッドホンです。
同社初の自社開発による106mm平面磁界ドライバーを搭載し、音の再現性を高めた意欲作。
これまでのFiiOヘッドホンはポータブル志向の製品が多かったのに対し、FT7は明確に「据え置きでじっくり聴く」ための設計です。
主な仕様は次の通りです。
- ドライバーサイズ:106mm平面磁界型
- 再生周波数帯域:5Hz〜40kHz
- インピーダンス:25Ω
- 感度:94dB/mW
- ケーブル:6N単結晶銅+液体窒素処理ケーブル(3m)
- 付属パッド:ラムスキン/ファブリックの2種類
さらに、カーボンファイバーとアルミ合金を組み合わせた軽量設計で、重量は約427g。
大型平面ドライバーを搭載しながらも長時間使用を想定した作りになっています。
デザインと装着感:上質素材で快適性も進化
第一印象として、Fiio FT7は高級感があります。
カーボンファイバーのヘッドバンドやアルミ削り出しのハウジングが光を反射し、いかにもフラッグシップらしい仕上げです。
実際に装着すると、見た目よりも軽く感じるのが印象的。
重量バランスが良く、側圧も適度で、ヘッドバンドのクッションがしっかり頭を支えてくれます。
付属のイヤーパッドは「ラムスキン」と「ファブリック」の2種類。
ラムスキンはしっとりとした密閉感で、低域がやや強め。
一方ファブリックは通気性がよく、音場が広がる開放的なサウンドになります。
素材で音のキャラクターが変わるため、音楽ジャンルや気分で付け替えるのも楽しいポイントです。
音質レビュー:解像度と空間表現が圧倒的
■ 高域:伸びやかで艶のあるサウンド
高域は刺さりがなく、自然な明るさを持っています。
シンバルの金属音やバイオリンの倍音が非常にクリアで、空気感を伴った伸びが心地よい。
平面磁界ドライバー特有のレスポンスの速さが感じられ、細部のディテールがよく見えます。
■ 中域:ボーカルの存在感が際立つ
中域はFT7の真骨頂ともいえる部分です。
ボーカルが前に出すぎず、それでいて芯のある表現。
音像が明確で、ギターやピアノの音も重なっても濁らない。
ナチュラルで立体的なサウンドステージを形成します。
ジャズボーカルやアコースティック系では、息遣いやホールの響きまで感じられるほどの解像度。
この繊細さはダイナミック型ではなかなか味わえません。
■ 低域:深く沈み込み、タイトに締まる
低域は量感よりも質を重視したタイプ。
キックドラムやベースがスピード感を持って沈み込み、全体のバランスを崩さない。
ダイナミック型のような“ドンシャリ感”ではなく、輪郭が明瞭で音の立ち上がりが速い印象です。
特にクラシックや映画音楽などでは、ホールの床を震わせるような重厚さを再現。
一方で、ロックやEDMでもタイトに鳴るため、ジャンルを選ばず楽しめます。
音場と定位感:まるでスピーカーのような広がり
オープンバック構造の恩恵で、音場の広がりは圧倒的です。
左右の分離が非常に良く、音が自然に空間へ溶け出すような感覚があります。
定位も正確で、ドラムセットの位置やギターのパン振りが手に取るようにわかる。
この広がりはスピーカーリスニングに近い体験で、ヘッドホンであることを忘れさせるほど。
クラシックではオーケストラ全体の立体感が明瞭に描かれ、
ジャズではステージ上の配置がリアルに浮かび上がります。
Fiio FT5との違い:音の厚みから透明感へ
前モデル「Fiio FT5」と比較すると、音作りの方向性が大きく変化しています。
FT5はエネルギッシュで濃厚な中低域が魅力の“ウォーム系”でした。
対してFT7は、より解像度と空気感を重視したフラット寄りのサウンド。
音の分離が向上し、空間の奥行きが広がったことで、全体が軽やかになっています。
そのため、ジャズやクラシックなどの音場表現を重視するリスナーにはFT7のほうが合うでしょう。
一方、ロックやメタルのように押し出し感を求めるなら、FT5のほうが“楽しく聴ける”という意見もあります。
つまり、FT7は“リスニング”というより“モニター的精度”に寄せたチューニングといえます。
推奨環境:アンプ・DACとの相性
Fiio FT7はインピーダンスが25Ωと低めですが、感度が94dBとやや低いため、
スマホ直挿しでは音量不足や力感の欠如を感じることがあります。
そのため、専用アンプやDACとの組み合わせが推奨です。
同社のBTR7やK9 PROなどの高出力モデルを使うと、低域の締まりと高域の伸びが一気に改善します。
特にバランス出力(4.4mm)接続では、ノイズの少ないクリーンなサウンドが得られ、
FT7の潜在能力を最大限に引き出せます。
ジャンル別おすすめ傾向
- クラシック:広い音場と繊細な表現がマッチ。弦楽器の質感が美しい。
- ジャズ:空気感と定位が秀逸で、ライブ録音が特に映える。
- アコースティック/ポップス:ボーカルの自然な立ち位置と温かみのある音色。
- ロック/EDM:解像度重視派には良いが、迫力重視のリスナーにはやや控えめに感じることも。
ジャンルを問わず高い表現力を持ちながらも、細部を聴き取りたい人向けのチューニングです。
総評:精密さと開放感を両立したFiiOの集大成
Fiio FT7は、単なる上位モデルではなく、ブランドの方向性を示す“完成形”に近いヘッドホンです。
平面磁界ドライバーの透明感と空間の広さは、同価格帯でも群を抜く仕上がり。
- 音の解像度と分離感
- 広大な音場と自然な定位
- 上質な装着感と素材の高級感
これらが高次元で融合しています。
一方で、駆動力を求める設計のため、再生環境に左右されやすいという注意点もあります。
ただ、適切なアンプと組み合わせたときのポテンシャルは非常に高く、
「ヘッドホンでここまで空間が再現できるのか」と驚くほどの臨場感を体験できます。
リスニングというより“音と向き合うための道具”という印象。
音楽を深く味わいたいリスナーには、間違いなくチェックすべきモデルです。
Fiio FT7の音質は本当に進化した?実機で感じた答え
結論からいえば、Fiio FT7の音質は明らかに進化しています。
特に平面磁界ドライバーによる解像度と音場の広がりは、前作とは別次元。
派手さや誇張ではなく、純粋に音の情報量と自然さを追求した設計で、
一音一音に息づくリアリティを感じられるのが最大の魅力です。
FiiOが本気で“リスナーの耳に訴える音”を作り上げた結果といえるでしょう。
精密さと開放感を求めるなら、Fiio FT7は現時点で最も完成度の高い選択肢のひとつです。
