こんにちは。最近、モスバーガーに行って「あれ、前よりちょっと高くなった?」と感じたことはありませんか? ふとレジの表示を見て、ため息をついてしまった人もいるかもしれません。
確かに、モスバーガーでは近年、何度か価格の改定が行われています。主力の「モスバーガー」単品を見ても、2023年に440円、そして2025年には470円へと引き上げられました。ほんの20年ほど前は300円前後で購入できたことを考えると、これは大きな変化です。
一方で、「値上げしすぎでは?」という消費者の戸惑いの声があるのも事実。SNSを見ると、「気軽に食べられなくなった」「もうファストフードじゃないのでは?」といった本音もちらほら。
でも、ちょっと待ってください。実はモスバーガーを展開するモスフードサービスの業績は、とても好調なんです。売上高はコロナ前の約600億円台から、2025年3月期には962億円を見込むまでに成長。客数も売上高も、前の年よりも確実に増えています。
「値上げしているのに、なぜお客さんは減らないの?」「私たち消費者は、この値上げをどう受け止めればいいの?」
この一見すると矛盾しているような現象の裏側には、外食産業全体を揺るがす大きな流れと、モスバーガーならではの戦略、そして私たち消費者の意識変化が隠れています。今回は、モスバーガーの値上げの理由を深掘りし、消費者の本音に迫りながら、これからの「モスの価値」について一緒に考えてみましょう。
なぜ値上げは避けられなかった? 5つの現実的な要因
まずは、モスバーガーに限らず、今の外食産業全体が置かれている厳しい環境を見てみましょう。値上げは決して「儲けを増やすため」だけではなく、「今の品質とサービスを続けていくため」の、ある意味でやむを得ない選択だった面があります。
- 世界中で食材の値段が上がっている:ハンバーガーの命であるお肉も、野菜も、パンになる小麦も、そしてソースの原料も、ほぼ全ての原材料の価格が上昇を続けています。特に海外から輸入する食材は、円安の影響もあって、以前のように安く仕入れることが難しくなっています。
- 店を動かすためのコストも増加:店舗で使う電気やガスの料金は、私たちの家庭と同じように高くなっています。さらに、食材を工場から店舗に運ぶ物流コストも、燃料費や人手不足に起因する配送コストの増加が全国チェーンの経営を圧迫しているのです。
- 従業員の環境を整えるための投資:これはとても大切な点です。全国的に最低賃金が引き上げられる中、アルバイトさんを含む従業員に適正な給与を支払い、良い環境で働いてもらうためには、どうしても人件費がかかります。品質の高いサービスは、そこで働く人あってこそです。
- テイクアウトやデリバリーが増えた影響:コロナ禍以降、お店で食べるよりも持ち帰ったり、配達を頼んだりする人が増えました。そのため、容器や袋などの包装資材の費用が、以前よりも大きな負担になっています。
- 「こだわり」を守るという選択:モスバーガーは創業以来、「注文を受けてから一つひとつ調理する」「新鮮な野菜にこだわる」といった姿勢を貫いてきました。最も簡単な値上げ回避策は、食材の質を落としたり、作り方を変えたりすることかもしれません。しかし、モスバーガーは「値段は上げるけれど、おいしさと安心はそのまま」という、消費者にとっては厳しいけれど誠実な道を選んだと言えるでしょう。
こうして並べてみると、値上げはモスバーガーだけの問題ではなく、マクドナルドなど他のチェーン店も同様に直面している、業界全体の大きな課題だということがわかります。
業界の常識が変わった! マクドナルドの戦略転換が生んだ「新たな普通」
モスバーガーの値上げを語る上で、絶対に外せないのが最大手のマクドナルドの動きです。実はこの約10年で、ファストフード業界の価格の「常識」は大きく書き換えられました。
かつて、マクドナルドは「100円マック」に代表される驚異的な低価格戦略で市場を席巻しました。当時はハンバーガー1個が税込62円という時代もあり、「ハンバーガーはとにかく安いもの」という消費者のイメージが強く定着していました。この流れの中で、安売り競争には参加せず、品質を重視したモスバーガーは「どうしてあんなに高いの?」と敬遠される側面も確かにありました。
しかし、そのマクドナルド自身が大きな転換期を迎えます。安さだけを追い求めることが店舗のイメージや利益を圧迫することに気づき、2010年代半ばからは「値上げ」「店舗の改装」「食材の品質向上」という、むしろ高級化とも言える路線に舵を切ったのです。
その結果、今のマクドナルドもまた、原材料費の高騰などを理由に定期的に値上げを実施しています。2025年3月には約4割のメニューで価格を改定しました。
ここで起きた大きな変化は、モスバーガーに対する私たちの「価格の感じ方」そのものが変わったということです。例えば、モスバーガーの定番セットが920円前後なのに対し、マクドナルドの人気セットも700~800円台が当たり前の時代です。両者の間にあった「明らかな価格差」は確実に縮まり、モスバーガーは「特別に高い店」から、「ちょっと高めの選択肢の一つ」へと、私たちの心の中での立ち位置を変えつつあるのです。
ブランドの根幹:「2等地戦略」と「野菜へのこだわり」が支える価値
では、なぜモスバーガーは値上げをしても、一定の支持を集め続けられているのでしょうか? その秘密は、創業時から続く独自のブランド戦略にあります。これは単なる「高い」ではなく、「高い理由」を私たち消費者が無意識に感じ取っているからかもしれません。
まずは「2等地戦略」と呼ばれる、店舗の立地に対する考え方です。競合他社が駅前一等地など、家賃の高い場所に出店するのに対し、モスバーガーはあえて少し歩いた場所や、賃料の比較的抑えられる「2等地」を選んできました。その分、浮いたコストを食材の質や、丁寧な調理法に投資するという選択です。「場所よりも、ハンバーガーそのものの味で勝負する」という創業者の哲学が今に生きています。
次に、近年ますます明確になっている「グラデーション戦略」です。これはメニューを「定番」「フェア(キャンペーン価格)」「プレミアム」の3つの価格帯に分けることで、様々なお客さんのニーズに応えようという試みです。
- 「今日はちょっと節約したいな」という時には、お得なキャンペーンメニューでファンを獲得。
- 「たまにはいいものを!」という気分の時には、厳選素材を使ったプレミアムバーガーを提供。
このように、値上げの影響を受けやすい定番メニューだけでなく、別の価値提案でお客さんをつなぎ止める、賢い戦略と言えます。
そして、何と言っても忘れてはいけないのが「野菜と国産食材へのこだわり」です。モスバーガーのバーガーを食べて、「野菜がしっかりしている!」「レタスがシャキシャキでおいしい」と感じたことはありませんか? これは長年にわたる品質へのこだわりです。女性を中心に支持を集める理由も、ここにあると言えるでしょう。
2025年4月からは、「モスバーガー独自の良さ・おいしさ」を見つめ直す動きも始まっています。一時的に流行りのメニューを追いかけるよりも、自分たちが昔から大切にしてきた「核」に戻ろうという姿勢は、ブランドの軸をしっかり持っているからこそできる選択です。
消費者の本音は二分される「理解」と「不満」の狭間
さて、気になるのは私たち消費者の実際の声です。SNSやネットの意見をまとめてみると、どうやら大きく二つのグループに分かれるようです。
一方では、「やむを得ない」という理解を示す声があります。
- 「スーパーの野菜も肉も値上がりしているんだから、外食が上がるのは当然」
- 「あの野菜のボリュームと新鮮さを維持するには、仕方ないのかも」
- 「アルバイトさんの時給が上がるのは良いこと。その分は受け入れよう」
このように、社会全体のコスト上昇を実感しているからこそ、値上げを「仕方ない」と納得する人は少なくありません。何十年もかけて築かれた「品質にうるさいモス」というブランドイメージが、値上げに対する「信頼」のような形で作用している面もあるでしょう。
しかしその一方で、「コスパ悪化」を嘆く本音も確かに存在します。
- 「昔は気軽に立ち寄れたけど、今は『ちょっと贅沢』な感じがする」
- 「モスバーガーのチーズバーガー1個で、マクドナルドのチーズバーガーが2個買える計算になる」
- 「本当にボリュームが欲しい時は、バーガーキングなどの専門店に行くかな」
特に、価格に対する厳しい目は若い世代や価格敏感な層に顕著です。「気軽なファストフード」というカテゴリーから少し外れた時、私たちは無意識に他の選択肢と比較を始めます。「モスバーガーに行くくらいなら、少し足を伸ばして別の店でがっつり食べよう」という考えは、競争の激しい外食市場において、モスバーガーが常に向き合わなければならない課題です。
ネット上には「儲けすぎでは?」という辛辣な意見も見かけます。消費者の気持ちは、家計を預かる者としての現実的な「不満」と、長年愛してきたブランドへの「信頼」の間で、実に複雑に揺れ動いているのです。
未来への挑戦:モスバーガーは「値上げしすぎ」を超えられるか
面白いことに、モスフードサービスの中村栄輔社長は、好調な業績にもかかわらず「2026年は厳しい経営をする」と発言しています。これは決して悲観的な宣言ではなく、「慢心することなく、本当に大切なことに集中する」という覚悟の表れと捉えることができます。
これからモスバーガーが持続的に成長していくためには、いくつかのハードルを越える必要がありそうです。
まずは「価格上昇の限界点」を見極めること。どこまで値上げをすれば、私たち消費者は「もういいや」と手を引いてしまうのか。この見極めは、経営者にとって最も難しい判断の一つでしょう。
次に、競合との差別化をさらに深めること。マクドナルドも高品質化を進め、バーガーキングのような専門店は独自の強みを打ち出しています。そんな中で、「野菜」「国産」「丁寧な調理」というモスバーガーの強みを、どう時代に合わせて進化させ、伝えていくか。商品開発においても、「モスバーガーらしさ」の本質を問い直す姿勢が求められます。
そして、公式アプリなどを活用した価値の提供も鍵になります。ポイントサービスや会員限定のクーポンは、単なる値上げに対する不満を和らげ、私たちに「お得感」を与える重要なツールです。「値段」以外の部分で、いかにファンになってもらうかを考える時代が来ているのです。
モスバーガーの値上げから見える、私たちの選択の未来
ここまで、モスバーガーの「値上げ」を様々な角度から見てきました。これは単なるハンバーガー1個の値段の話ではなく、世界的な経済の流れ、業界の再編、そして一つの企業が「こだわり」を貫くための選択の結果であることがわかります。
振り返ると、モスバーガーはかつて「高いから」という理由で選ばれない時期もありました。しかし、業界の価格帯そのものが上昇し、マクドナルドとの差が縮まった今、むしろ「その価格に見合う品質がある」という評価が得られる土台ができあがりつつあります。
私たち消費者の反応が「理解」と「不満」に分かれるのは、モスバーガーが「毎日食べるファストフード」とも「たまに食べるちょっと良いハンバーガー」とも言い切れない、独特なポジションにいるからかもしれません。それは弱みであると同時に、他にはない強みでもあります。
結局のところ、「モスバーガーが値上げしすぎかどうか」の最終判断は、私たち一人ひとりの財布と心が下します。値上げは確かに家計には響きますが、そのお金が、従業員の適正な賃金に、新鮮な国産野菜に、そしてこれからも変わらない「焼きたての美味しさ」に還元されているのだと信じるなら、その選択には意味があるのではないでしょうか。
これからの時代、私たちはただ「安いもの」を選ぶだけでなく、「何にお金を払う価値があるのか」をより意識して選択していくことになるでしょう。モスバーガーの値上げは、そんな私たち消費者自身の「価値観」を問いかける、一つのきっかけなのかもしれません。次にモスバーガーの店先で足を止めた時、あなたはその価格を、どう受け止めますか?
