ふとスーパーに行ったり、外食しようと思ったりしたときに、ふと目に留まる値札やメニューの価格。いつの間にか「また値上げ?」と心の中でつぶやいたり、家族や友人と「値上げいい加減にしろよ」と愚痴をこぼしたりした経験、誰にでもありますよね。
食費、光熱費、日用品…あらゆるものがじわじわと上がり続ける今、私たちの生活は確実に圧迫されています。でも、ただ怒っているだけでは何も変わりません。この記事では、多くの消費者から上がる怒りの声の背景をひも解きながら、この「値上げ疲れ」の時代を、少しでも賢く、前向きに乗り切るためのヒントを考えていきます。
「イライラ消費」が日常に? 値上げが生む消費の矛盾
実は、値上げが続く中で、ある矛盾した現象が起きています。それは「イライラ消費」と呼ばれるものです。不満やイライラがあるにもかかわらず、生活に必要なものは結局買わざるを得ない。そんな切迫感が、逆に消費を下支えしている側面があるんです。
例えば食品スーパー。実は売上高は長期間にわたって増え続けているのですが、これは私たちが喜んでたくさん買っているからではなく、ひとつひとつの商品の単価が上がった結果、「かさ上げ」されている面が大きいと言われています。外食も同じで、ファストフードやカレーチェーンなどの客単価はこの数年で大きく上昇。特にカレーハウスCoCo壱番屋の客単価は、すでに都市部の平均的なランチ代を超える水準にまでなっています。
私たちは「もう高い!」と感じながらも、ついそのレジで支払いをしている。これが「イライラ消費」の実態です。その背景には、企業側にも厳しい事情があるのも事実です。原材料費や人件費、物流費など、あらゆるコストが上昇し、価格に転嫁せざるを得ない構造的な問題があるのです。
私たちの本音を大調査! 節約するほど出費が増えるジレンマ
では、私たち消費者は実際にどのように感じ、どう行動を変えているのでしょうか。その心理と行動は、大きく分けて二つの方向に向かっています。
一つは、強まる「節約意識」とそのジレンマです。
食料品の購入では、実に8割以上の人が「節約を意識している」と答えています。具体的には「特売の日にまとめ買いする」「できるだけ安い商品を選ぶ」といった行動です。しかし、ここに面白い、あるいは悲しい現実があります。節約を強く意識する人ほど、特に「お菓子やスイーツ」といった嗜好品への年間支出が、逆に多くなっている傾向があるのです。
これは、「普段我慢しているからこそ、つい自分へのご褒美で買いすぎてしまう」とか、「家族が多いなどで購入量を減らせず、結果的に支出が膨らんでしまう人が、より強く節約を意識している」といった、生活者の複雑な心理が働いているからかもしれません。ただ安ければいいのではなく、心のバランスを取りながらやりくりする難しさが、ここには表れています。
もう一つは、「ブランドスイッチ」と「推し消費」という、正反対の動きです。
ティッシュやトイレットペーパーなどの日用品では、値上げを機に「少しでも安い代替品」を求めて乗り換える「ブランドスイッチ」が確実に進んでいます。レシートの分析でも、値上げ幅の少ない商品や、同じ値段でも量が多い「倍巻き」商品への切り替えが目立つそうです。
しかし一方で、値上げを許容する、むしろ進んで支払う心理も確実に存在します。それが「推し消費」です。特定の企業やブランドを「推す」人は、全体の約3割に上り、若い世代では約半数にまで達します。そしてこの「推し企業あり層」の約半数は「値上げしても買い続ける」と回答し、約3割は「20%以上の値上げ」すら受け入れるとさえ答えているのです。
なぜでしょうか? この心理について専門家は、「消費が、単なる金銭のやり取りを超えて、『自分が好きなものを支えたい』という『貢献』や『応援』の意味合いを帯びるから」と分析します。つまり、商品と消費者との関係が、ドライな「売り買い」から、情緒的な「人間関係」に近づいた時、値上げは「存続してもらうための必要な経費」として捉えられやすくなるのです。
同じ消費者の中に、「一般的な値上げには怒りを感じる」気持ちと、「好きなブランドの値上げは応援の一環と捉える」気持ちが共存する。これが現代の消費者の複雑な本音なのかもしれません。
沈黙する不満と、賢い消費者としての「選択」
実は、日本の消費者には、悪い経験をしてもそれを企業に直接伝えず、購入を継続してしまう傾向があると言われています。不満があっても「面倒くさい」「言っても変わらないだろう」と諦め、沈黙してしまう。この「沈黙の大多数」が存在するのです。
しかし、その「沈黙」は決して「満足」を意味しません。むしろ、不満が蓄積され、ある日突然、「信頼の切り替え」が起こります。ある調査では、繰り返される値上げで信頼が崩れ、10%の値上げで約半数の消費者が他のブランドに乗り換える可能性があると指摘されています。
私たちは、無意識のうちに「高くても行く店」と「もう行かない店」を選別し始めています。例えば、ハンバーガーチェーンが一部メニューを値上げしながら、同時に手頃な価格のセットメニューを強化する動きは、「一律の値上げ」の限界を感じ、賢い消費者へのソフトランディングを図る策と言えます。
逆に、あるファミリーレストランが「値上げしない」宣言を貫きながら、低価格を武器にデザートやドリンクなどでの「ついで買い」を増やし、結果的に客単価を上げている例もあります。重要なのは、単に「安いか高いか」ではなく、「その価格に見合った価値があるか」を、私たち消費者が日々、厳しく見極めているということです。
「値上げいい加減にしろ」の先へ 賢く生き抜くための思考法
では、この「値上げ疲れ」の時代を、私たちはどう生き抜いていけばいいのでしょうか。企業や社会への要望と、個人でできることを分けて考えてみましょう。
まず、企業や社会に対しては、「メリハリのある価格政策」と「透明性」を求めていきましょう。
生活に絶対に必要な基礎的な商品はできるだけ手頃な価格で提供しつつ、こだわりや体験に価値を感じる商品については、その理由をきちんと説明した上で適正な価格を設定する。そうした「二極化」が求められています。さらに、なぜ値上げが必要なのか、その背景にある原材料調達の持続可能性への取り組みや、生産者支援などの「物語」を伝える努力も、企業にはしてほしいところです。
そして、私たち個人が今日からできることは、「価格」だけで選ばない、賢い消費者になることです。
その第一歩は、自分自身の「許容範囲」と「こだわり」を知ることです。
- 「価格」以外の価値軸を持つ: この商品は、安いだけでなく、環境に配慮しているか? 地元の生産者を支えているか? 長く愛用できる品質か? といった別の視点で評価してみましょう。
- 「推し」を見つける: どうしても応援したいと思う企業やブランドがあれば、その理由を明確にし、値上げがあっても納得できる部分と、疑問に思う部分を分けて考えてみましょう。
- 沈黙しない: 不満や疑問があれば、SNSやアンケートなどを活用して、建設的に発信してみる。企業は、そうした声を待っているはずです。
2026年も、まだ値上げの波は続く見込みです。しかし、「値上げに慣れる」ことは、諦めることではありません。怒りの声を上げつつも、日々の選択を一つひとつ大切にし、本当に価値があるものを見極める力。それこそが、この時代を生き抜く私たちの最大の武器になるのではないでしょうか。
モノやサービスを「買う」という行為が、単なる消費を超えて、どんな社会を未来に残したいのかという「選択」になる。そんな視点を持てたとき、「値上げいい加減にしろ」という怒りの声は、より良い市場と豊かな生活を築くための、建設的な力に変わっていくはずです。
