はじめまして、旅と食にまつわる日々を綴っている者です。ニュースを見て、ちょっとびっくりしました。箱根・大涌谷の名物「大涌谷の黒たまご」に、ついに変化の時が訪れたようです。長きにわたって親しまれてきたあのパッケージと価格が、新たなステージへと移行するのですね。今回の大涌谷の黒たまごが値上げという話題は、単なる観光地のニュースではなく、日本の観光や食を取り巻く大きな環境変化を映し出す鏡のような気がしています。いったい何が起きているのか、私たち観光客への影響は、そして今後の販売価格はどうなるのか。一緒に探っていきましょう。
黒たまご値上げの真相:5個から4個への「実質値上げ」
まずは具体的な変更点から確認しましょう。これまで大涌谷の黒たまごといえば、500円(税込)で5個入りのパッケージが定番でしたよね。あの温泉の蒸気で真っ黒に染まったユニークな見た目と、「1個食べれば7年寿命が延びる」という楽しい伝説は、箱根観光の大きな楽しみの一つでした。
今回の変更は、「定価500円」という数字自体は変わりません。しかし、中身の個数が5個から4個に減りました。つまり、1個あたりの単価は100円から125円に上がったわけです。これは実質25%の値上げに相当します。販売元の「奥箱根観光」は「値上げ」という表現を直接使うのではなく、内容量の調整という形でコスト増に対応せざるを得なかったようです。長い間「物価の優等生」として親しまれてきた黒たまごが、時代の大きな波に揉まれる転換点を迎えたのです。
なぜ今?黒たまごを襲った「たまごショック」の衝撃
では、なぜ今このような変更が必要だったのでしょうか。その根本原因は、日本の食卓を大きく揺るがしている「たまごショック」にあります。あなたもスーパーで、卵の価格が以前とはまるで違うことに驚いたことがあるのではないでしょうか。
ここ数年、卵の卸売価格は史上最高値を更新し続けています。都内のあるスーパーでは、Mサイズ卵10個入りの価格が170円台から一気に356円へと跳ね上がった例も報告されています。これは約2倍以上です。この異常な価格高騰の最大の原因は、2023年から2024年にかけて国内で大流行した高病原性鳥インフルエンザです。
このウイルスの影響で、国内では過去最多となる1700万羽以上の鶏が殺処分されました。これは日本の産卵鶏の飼養数の実に約1割にも上る壊滅的な数です。青森県の大規模養鶏場「東北ファーム」では、一度の感染で139万羽が失われ、売り上げが約70億円から一気にゼロになるという事態が起きました。生産を再開するまでには半年以上、元の供給体制を取り戻すには1年から1年半はかかると見られています。
養鶏業界の関係者は「卵の小売価格が180円~190円にはもう戻らない」と話し、長らく「物価の優等生」として親しまれてきた卵が、その地位を失いつつある現実を伝えています。全国の家庭や飲食店を直撃しているこの大波が、ついに箱根の名物、黒たまごにも及んだのです。
箱根観光の今:増える外国人観光客と変わる風景
黒たまごの値上げは、卵価格だけの問題にとどまりません。実は、箱根という観光地そのものが大きな転換期を迎えているのです。その背景にあるのは、訪日外国人観光客(インバウンド)の驚異的な回復です。
2024年、箱根町を訪れた観光客数は約2031万人と、6年ぶりに2000万人の大台を回復しました。この数字を詳しく見てみると、とても興味深い傾向が見えてきます。なんと、外国人宿泊客の数が、前の年に比べて1185%増という爆発的な伸びを示しているのです。一方で、日本人観光客の数は微減している傾向にあります。
この急激な変化は、地元の経済にとっては明るいニュースである一方で、新しい課題「オーバーツーリズム」も生み出しています。公共交通機関の極度の混雑や、温泉施設でのマナー問題などが地元メディアで取り上げられることも増えました。さらに、円安と強い訪日需要を背景に、2026年にはハイアットホテルや、三井不動産とマリオットの提携による高級ホテルなど、外資系ホテルの新規開業が箱根で相次ぐ予定です。この流れは、外国人観光客のさらなる増加を促すでしょう。
地元の関係者からは、日本人観光客の減少について、こんな声が聞こえてきます。「外国人観光客の動きが早く、宿泊施設の予約が取りにくくなっている。加えて、外国人観光客向けの価格設定がされた土産物や宿泊費に、日本人観光客が戸惑いを感じているのではないか」。黒たまごの実質値上げも、こうした国際的な物価水準に合わせようとする、観光地としての変化の一環として捉えることができるかもしれません。
あなたの観光スタイルは大丈夫?賢い黒たまご入手作戦
こうした箱根を取り巻く環境の変化は、私たち観光客の行動そのものも変えつつあります。もしあなたが今度の週末に箱根へ行き、黒たまごを確実に手に入れたいなら、昔のノリでは難しいかもしれません。観光客の行動パターンは、すでにアップデートが必要な段階に来ているのです。
まず、黒たまご自体の販売状況について。大涌谷は活発な火山活動地帯です。その影響で、噴火警戒レベルが上がると、ロープウェイが運休し、黒たまごの販売そのものが中止になることがあります。また、人気が非常に高いため、お昼過ぎにはほぼ完売してしまうのが日常です。確実にゲットするための鉄則は、「午前11時までに大涌谷に到着する」こと。これはもう必須と言っていいでしょう。
次に、アクセスです。大涌谷へのアクセス道路は、箱根でも指折りの渋滞名所。特に土日祝日の昼間は、車での移動がかなり困難になります。そこでおすすめなのが、ふもとの「早雲山駅」の駐車場に車を停め、そこから箱根ロープウェイを利用する「パーク&ライド」方式です。混雑を避け、ストレスなく移動できる賢い方法として、すでに多くの人に定着しつつあります。
そして、もっとも重要なのが「情報戦」です。箱根町や観光協会(DMO)は、混雑を回避し、快適に観光を楽しんでもらうため、リアルタイムの渋滞情報、駐車場の空き状況、主要施設の混雑度を配信する「箱根観光デジタルマップ」の開発を進めています。これからの箱根観光は、事前にこうしたデジタルツールで情報を入手し、計画を立てることが、楽しさを何倍にもするカギになりそうです。
黒たまごはもう元に戻らない?今後の価格と箱根の未来
さて、気になるのは今後ですね。黒たまごの価格はこのまま安定するのでしょうか?それともさらに変化が訪れるのでしょうか。そして、私たちが愛してやまない箱根の風景は、これからどうなっていくのでしょう。
まず、卵そのものの価格動向について、専門家の見解は厳しいものです。冒頭でお話しした鳥インフルエンザの問題は、一時的なものではなく「新常態」になりつつあります。以前は、ウイルスに感染した渡り鳥が多く死んだため、日本にウイルスが持ち込まれるリスクは限られていました。しかし現在のウイルスは変異し、渡り鳥を殺さなくなりました。つまり、感染した渡り鳥が元気に日本に飛来するリスクが、毎年つきまとうようになったのです。
この現実は、養鶏現場に大きな負担を強います。窓を完全に閉め切った「ウインドウレス鶏舎」の導入や、鶏舎を分散させて管理する「分割管理」など、巨額のコストがかかる防疫対策が不可欠になります。これらのコストは、当然ながら卵の価格に反映されていきます。黒たまごが500円という親しみやすい価格帯を維持するためには、今回のような内容量の調整という選択肢は、今後も否定できないかもしれません。
次に、観光地としての箱根の未来です。黒たまごの値上げは、急増するインバウンド需要や、リゾート地の地価高騰(全国でバブル期以来の上昇が見られます)と相まって、一つの大きな問いを投げかけています。「箱根は、いったい誰のための観光地なのか?」と。
地元・箱根町では、外国人による空き家の購入と民泊化が進み、地元に住みたいと思う人たちが家を確保できなくなるといった、新たな社会問題も生まれ始めています。外国人観光客と日本人観光客、観光業と地域住民、短期的な経済効果と長期的なコミュニティの持続性…。これらのバランスをどう取っていくかが、箱根の未来を決めるといっても過言ではありません。
その解決のヒントの一つが、先ほどご紹介した「箱根観光デジタルマップ」のような、デジタル技術を活用した観光客の分散化(ディストリビューション)です。混雑を可視化し、時間や場所によって観光客を自然に流していく。こうした取り組みは、オーバーツーリズム対策として国も推進する方向です。観光客を「呼び込む」だけでなく、地域を壊さずに「うまく受け流す」仕組みを作れるか。それが、箱根の美しい自然と温泉文化を次世代に残すための鍵になるでしょう。
私たちにできること:価格から「体験価値」へ視点を変えてみる
最後に、このニュースを受け止める私たち観光客の側の心構えについて、少し考えてみたいと思います。
かつては、卵も黒たまごも、変わらない価格で提供され続ける「物価の優等生」の代表でした。しかし今、地球規模での気候変動(鳥インフルエンザウイルスの常在化)や、グローバルな人の流れ(インバウンド)は、そんな身近なものの価値さえもダイレクトに変えてしまう力を持っています。黒たまごの値上げは、そのことを私たちに気づかせてくれる、小さくて大きなサインかもしれません。
だからこそ、私たちがその価値を測る物差しを、そっと置き換えてみる時が来ているのだと思います。「いくらで何個買えたか」という数字から、「そこでどんな体験を味わえたか」という記憶へ。大涌谷に立ち込める硫黄の香り、地熱で湧き立つ温泉の蒸気、真っ黒に染まった殻を割った時のあの温かみ。そして、1個食べれば7年寿命が延びるかもしれない、というほんの少しのワクワク。それらすべてを含めた「非日常体験」こそが、黒たまごの真の価値ではないでしょうか。
内容量の変更は、このかけがえのない体験を未来の子どもたちにも届けていくために必要な、「持続可能性への小さな投資」と受け止めてみてはどうでしょう。変わらぬ魅力と、変わりゆく現実の狭間で、黒たまごは、これからも箱根のシンボルであり続けてくれると信じています。
大涌谷の黒たまごが値上げ!観光客に与える影響と今後の販売価格は?
黒たまごのニュースは、一つの観光名物の変化を超えて、私たちの「旅の仕方」や「価値の見つめ方」まで問いかけてくるようでした。これから箱根を訪れる際は、少し早めに出発して黒たまごをゲットし、混雑情報をチェックしながら、その時しか味わえない箱根の空気をたっぷりと楽しんでくださいね。今後の販売価格がどうなるかは、私たち一人ひとりのそうした向き合い方も、きっと関係しているはずですから。
