大相撲の世界で、新横綱が誕生したときに最も注目を集める儀式といえば「土俵入り」ですよね。真っ白な綱を腰に締め、力強く四股を踏む姿は、まさに現人神のような神々しさがあります。
しかし、よく見ると横綱によって腕の構えやせり上がりの形が違うことに気づくはずです。これがいわゆる「雲龍型(うんりゅうがた)」と「不知火型(しらぬいがた)」の2つの型です。
「この2つはどうやって選んでいるの?」
「一門によって決まりがあるって本当?」
「不知火型は短命というジンクスは今も生きているの?」
今回は、相撲ファンなら一度は抱くそんな疑問をスッキリ解決するために、雲龍型と不知火型の選び方の基準や、それぞれの型に込められた深い意味について詳しく解説していきます。
土俵入りの2つの型、その決定的な違いとは?
まず前提として、現在行われている土俵入りには大きく分けて2つのスタイルがあります。見た目上の最大の違いは「せり上がり」のポーズと「綱の結び目」にあります。
守りと攻めのバランス「雲龍型」
雲龍型は、せり上がるときに右手を前(あるいは横)に伸ばし、左手を胸のあたり(脇腹)に当てます。この形は「右手で攻め、左手で守る」という攻守兼備の精神を表しているとされています。
また、背中に回した綱の結び目が「輪が一つ」なのが特徴です。シンプルながらも力強く、安定感を感じさせるフォルムから、歴代の多くの横綱に選ばれてきた「主流」の型といえます。
攻撃こそ最大の防御「不知火型」
一方で不知火型は、せり上がりの際に両腕を左右に大きく広げます。このダイナミックなポーズは「常に攻撃的な姿勢」を象徴しており、見る者に圧倒的な威圧感を与えます。
こちらの綱の結び目は「輪が二つ」になっており、後ろ姿も非常に華やかです。かつては採用する力士が少なく「少数派」とされてきましたが、その美しさと迫力から熱狂的なファンが多い型でもあります。
横綱が型を決める「選び方」の4つの基準
新横綱がどちらの型にするか決める際、実は「絶対にこうしなければならない」という厳格な公的ルールはありません。しかし、相撲界の長い歴史の中で培われた「暗黙の基準」がいくつか存在します。
1. 所属する「一門」の伝統を重んじる
最も大きな判断材料となるのが、その力士が育った「一門」の系譜です。
- 出羽海一門、二所ノ関一門、時津風一門、高砂一門などは、伝統的に「雲龍型」を継承する傾向が非常に強いです。
- 伊勢ヶ濱一門(旧立浪一門)は、伝統的に「不知火型」を継承してきました。
自分の師匠や一門の先輩横綱が代々行ってきた型を引き継ぐことは、一門の誇りを守ることにも繋がります。そのため、昇進が決まると自然と一門の型に決まるケースがほとんどです。
2. 師匠の意向と憧れの横綱への敬意
一門の伝統と同じくらい重要なのが、師匠の教えです。もし師匠が元横綱であれば、その弟子も同じ型を選ぶのが通例です。
また、一門が違っても、自分が子供の頃から憧れていた大横綱や、自分の相撲スタイルがお手本としている往年の名力士の型にあやかりたいという本人の希望が考慮されることもあります。
3. 自身の相撲スタイルとの整合性
横綱自身の取り口が、型の持つ意味と合っているかどうかも検討材料になります。
「受けが強く、四つに組んでじっくり攻める」タイプなら、攻守のバランスを説く雲龍型。「立ち合いから一気に押し込み、圧倒的なパワーでねじ伏せる」タイプなら、攻撃の精神を象徴する不知火型。
自分の相撲哲学を土俵入りの所作に込めることで、横綱としての精神性を高める狙いがあります。
4. 指導役(伝承者)との兼ね合い
新横綱は、昇進後に先輩横綱や引退した親方からマンツーマンで土俵入りの指導を受けます。この際、誰に指導を仰ぐかによって型が決まるという実務的な側面もあります。
特に一門内に教えられる経験者がいない場合、他の一門から指導を招くことになり、その流れで型が選定されることも稀にあります。
「不知火型は短命」というジンクスは本当か?
相撲ファンの間で長年囁かれてきたのが「不知火型を選ぶと横綱寿命が短くなる」というジンクスです。
この噂の根源は、かつての相撲評論家が「不知火型は守りがない邪道な形だ」と批判したことや、昭和の名横綱・玉の海が不知火型で現役中に急逝してしまった悲劇などが重なり、不吉なイメージが定着してしまったことにあります。
しかし、現代においてこのジンクスは完全に過去のものとなりました。
その認識を大きく変えたのが、第69代横綱・白鵬です。彼は不知火型を選びながらも、歴代最多の優勝回数を誇り、驚異的な長期間にわたって横綱の地位を守り抜きました。さらに現在の横綱・照ノ富士も不知火型であり、怪我を乗り越えて何度も優勝を果たすなど、その強さを証明しています。
今では「不知火型=短命」と心配する声よりも、その華やかで攻撃的な所作に魅了されるファンの方が圧倒的に増えています。
土俵入りをより深く楽しむためのポイント
次に大相撲を観戦するときは、ぜひ以下のポイントをチェックしてみてください。
- 綱の重みを感じる: 横綱が締めている真っ白な綱は、麻でできており、その重さはトレーニング 重りのような感覚を遥かに超える、10kgから15kgほどもあります。あの巨体で重い綱を締め、片足で静止するバランス感覚は超人的です。
- せり上がりのスピード: 力士によって、ゆっくりと力強くせり上がるタイプと、スッと鋭く立ち上がるタイプがいます。そのスピード感にも個性が現れます。
- 露払いと太刀持ち: 横綱の両脇を固める力士とのコンビネーションも注目です。通常、同じ一門の力士が務めるため、一門の絆が見える瞬間でもあります。
相撲の歴史を紐解くと、実は江戸時代の雲龍と不知火が行っていた型は、今の呼び名とは逆だったという説もあります。明治時代以降に今の呼び名で固定されたと言われていますが、そうした歴史の「ゆらぎ」を知るのも相撲の醍醐味です。
まとめ:横綱の土俵入りはどう決まる?雲龍型と不知火型の違いや選び方の基準を徹底解説!
いかがでしたでしょうか。横綱の土俵入りは、単なるパフォーマンスではなく、一門の伝統、師匠への敬意、そして自身の相撲哲学を表現する神聖な儀式です。
「雲龍型」は攻守のバランスを重んじる主流派、「不知火型」は攻撃的な精神を象徴する華やかな少数派。かつてはジンクスに怯えた時代もありましたが、今ではどちらの型も横綱の個性を引き立てる素晴らしい伝統として愛されています。
新横綱が誕生したとき、彼がどちらの型を選び、どのような覚悟で土俵に上がるのか。その背景にある「選び方」を知ることで、大相撲観戦がより一層深いものになるはずです。
次に新しい横綱が誕生する際は、ぜひこの記事を思い出しながら、一門の系譜や師匠との絆に注目して発表を待ってみてくださいね。
「この力士なら、きっとあの型を選ぶだろうな」という予想を立ててみるのも、相撲通ならではの楽しみ方ですよ。
