「えっ、キリン スタウトってもう売ってないの？」
黒ビール好きの間でそんな声が広がったのは、ここ数年のこと。長年愛されてきたキリンのスタウトが、ひっそりと姿を消しました。
なぜ終売になってしまったのか。今回は、その背景と黒ビールファンが知っておきたい“真相”をじっくり掘り下げます。
キリン スタウトとは？90年近く愛された黒ビールの系譜
キリン スタウトの歴史は、実はとても古いんです。
1932年（昭和7年）に登場し、キリン麦酒が誇る本格的な黒ビールとして知られていました。
深いロースト香とまろやかなコク。ビールファンの中では「日本のスタウトといえばこれ」という存在でした。
やがて2000年代に入ると、「一番搾り 黒生」「一番搾り スタウト」といった派生ブランドが登場します。
2007年には「一番搾り 黒生」が終売し、代わりに「一番搾り スタウト」が全国発売。
当時は、“黒なのに飲みやすい”という新しい黒ビールの魅力を打ち出していました。
その後も2013年、2014年とリニューアルを重ね、製法や麦芽配合を改良していましたが、最終的に出荷終了となり、公式サイトの「出荷終了品一覧」にも掲載されることになります。
なぜキリン スタウトは終売になったのか？
メーカーから明確な「終売理由」の発表はありません。
しかし、ビール市場全体の流れやブランド戦略の変化をたどると、いくつかの理由が見えてきます。
1. 黒ビール市場の縮小と嗜好の変化
近年、日本のビール市場は年々縮小しています。
とくに黒ビールやスタウトのような“濃い味わい”のジャンルは、売上構成比が小さく、日常的に飲まれる商品ではなくなっていました。
若い世代を中心に、「軽くて香りがよい」「すっきりした飲みやすさ」を求める傾向が強まり、濃厚なスタウトは少し敬遠されがちだったのです。
2. 製造コストと効率化の壁
黒ビールを造るには、ロースト麦芽やカラメル麦芽といった特別な原料が必要です。
さらに、キリン スタウトの場合は上面発酵酵母や特殊なホップ投入（レイトホッピング製法）など、一般的なラガーよりも工程が複雑。
こうした製造コストの高さやライン調整の負担は、量産体制を取る大手メーカーにとって大きな課題でした。
売上が伸び悩むなかで、採算ラインを保つのが難しくなっていたと考えられます。
3. ブランド整理の一環
2010年代以降、キリンは「一番搾り」シリーズを中心にブランドの再編を進めてきました。
多様な派生商品を出すよりも、主力ブランドに集中する戦略です。
その中で、販売数の少ない黒ビールや限定商品は整理の対象となった可能性が高いでしょう。
つまり、「撤退」ではなく「選択と集中」の結果だったのです。
4. 飲用シーン提案が広がらなかった
「ホットスタウト」などの提案もありましたが、定着には至りませんでした。
家庭で黒ビールを温めて飲むという文化が根づかなかったのは、まだ日本では「ビール＝冷たいもの」というイメージが強かったからかもしれません。
販促施策を工夫しても、飲用シーンの拡大に限界があったのです。
リニューアルで見せた「黒の進化」も印象的だった
終売前のリニューアルでは、実に興味深い挑戦が行われていました。
- 2013年版：酵母を下面発酵から上面発酵に変更。ロースト麦芽とカラメル麦芽のバランスを見直し、香ばしさを強化。
- 2014年版：発酵温度を下げ、ホップを煮沸後半に投入する「レイトホッピング製法」を採用。華やかな香りと深いコクを両立。
これらの改良は、黒ビールを「飲みやすく、香り高く」進化させようという試みでした。
しかし、それでも市場全体の需要には届かず、最終的には終売の判断に至ったと見られます。
終売の裏にある“合理的な判断”と“惜しまれる味”
終売というとネガティブに聞こえますが、メーカーにとっては「限られたリソースを主力に集中させる」ための経営判断です。
黒ビールは根強いファンがいるものの、販売数量や利益面ではラガーや新ジャンルに比べて圧倒的に小さい市場。
生産ラインの確保や原料調達コストを考えると、常時製造を続けるのは難しかったはずです。
一方で、ファンにとってはやはり寂しいニュース。
あの香ばしい香り、厚みのあるコクをもう味わえないという事実は、黒ビール好きにとって痛手でした。
代替・後継として楽しめる黒ビールたち
キリン スタウトがなくなった今でも、他に楽しめる黒ビールはあります。
キリン自身では「SPRING VALLEY 豊潤＜496＞」の限定黒や、「キリンブラウマイスター」の黒系ラインが一部登場しています。
また、他社では「アサヒ スタウト」「サッポロ エビス プレミアムブラック」「ギネス エクストラスタウト」などが定番です。
特にギネス エクストラスタウトは、キリン スタウトと同じ“上面発酵の濃厚タイプ”として比較されることが多く、飲み比べると違いがよく分かります。
苦味やコクのバランスが少し違いますが、「濃い黒」を求めるなら試す価値ありです。
黒ビールファンが覚えておきたい3つのポイント
- 終売品は在庫限り
店頭や通販サイトに残っている分が最後。気になる方は見かけたら即購入が吉。 - クラフトビールで代替できる時代
今では多くのブルワリーがスタウトやポーターを造っています。
「自分だけの黒」を探す楽しみが広がっています。 - 再販・復刻の可能性もゼロではない
キリンは過去にも期間限定で復刻版を出した実績があります。
スタウトもファンの声次第では、限定醸造として戻ってくる可能性があります。
まとめ｜キリン スタウト終売の理由と今後の楽しみ方
キリン スタウト終売の理由は、一言でいえば「市場の変化とブランド整理の流れの中での合理的判断」です。
需要の縮小、コストの高さ、ブランド集中の戦略が重なり、長年愛された黒ビールが幕を下ろしました。
しかし、その味わいと存在は確かに多くのファンの記憶に残っています。
黒ビールというジャンル自体は、クラフトビール文化の拡大とともに再び脚光を浴びつつあります。
もし「もう一度あの味を」と感じるなら、スタウト系クラフトを探してみてください。
新しいお気に入りが、きっと見つかるはずです。
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