街中で小さな電気自動車を見かけたことがある人も多いかもしれません。そう、あの一人乗りの小さな車「コムス（COMS）」です。軽自動車よりもさらにコンパクトで、環境にもやさしいと評判だった超小型EVですが、最近になって「販売終了したらしい」「もう新車では買えない」といった声が増えています。
本当に販売終了してしまったのでしょうか？ そして、トヨタがこの超小型EV事業にどう向き合っているのか、その背景を丁寧に見ていきましょう。
コムスとは？トヨタが生んだ“超小型EV”の先駆け
コムスは、トヨタ車体が開発・販売していた1人乗りの電気自動車です。正式名称は「超小型BEV COMS」。全長わずか2.4m弱、幅も1.1mほどしかなく、まさに“街のチョイ乗りモビリティ”として設計されました。
1回の充電で走れる距離はおよそ50km。最高速度は約60km/h。家庭用100Vコンセントで充電できる手軽さもあり、通勤や買い物、宅配用途などに利用されてきました。
車検や車庫証明が不要な「ミニカー（第一種原動機付自転車）」扱いのため、維持費が安いのも魅力でした。個人だけでなく、宅配業や観光地のレンタル車両としても活躍。10年間で約9,500台が販売されたとも言われています。
小型で環境にやさしい、そしてランニングコストも抑えられる。まさに“未来の街乗りEV”を先取りしていた存在でした。
「販売終了した？」という声が増えた理由
2024年ごろからSNSやニュースで「コムスが販売終了した」という話が広がりました。実際、トヨタ車体の公式サイトで新車の販売情報が一時的に掲載されなくなり、「生産が止まったのでは？」と憶測を呼んだのです。
一部の販売店では「新車の取り扱いは終了しました」と案内されるケースもあり、中古市場で探す人も増加しました。
ただし、2025年11月にはトヨタ車体が「超小型BEVコムスを一部改良した」とのニュースリリースを発表。つまり、完全終了ではなく、何らかの形で継続していることが確認されています。
このことから、「販売終了」というよりも「販売形態の変更」や「生産ラインの整理」が行われている可能性が高いと考えられます。
トヨタのEV戦略が変わった？販売終了の背景にある“方向転換”
では、なぜ「販売終了説」が出てくるほどに販売が縮小したのでしょうか。その背景には、トヨタグループ全体の電動化戦略の変化が見えてきます。
1. 市場の小ささと採算性の問題
コムスは非常にニッチな市場向けの商品でした。1人乗り、最高速度60km/h、航続距離50kmという仕様は、都市部の短距離移動には便利ですが、一般家庭で“1台目の車”として選ばれることはほとんどありません。
需要が限られる一方で、安全基準やバッテリー管理などのコストは上昇。生産数が少ないために採算を取るのが難しく、事業としての優先度は下がっていったと考えられます。
2. 超小型モビリティの法制度の限界
日本には「超小型モビリティ制度」がありますが、高速道路の走行ができない、二人乗りが制限されるなどのルールがあり、使えるシーンが限定されます。
また、充電環境がまだ整っていない地域では利便性が低く、一般層にまで普及しにくいのが現実です。制度的な枠組みが整っていないことも、販売拡大を阻む要因となっていました。
3. トヨタグループのリソース再配分
トヨタは今、電動化の中心をSUV、ハイブリッド、そして軽EVなどに移しています。超小型EVは社会実験的な役割を果たしましたが、大量生産の柱にはなりにくい。
さらに、同グループの「C+pod」も2024年に生産終了が発表されており、トヨタが“超小型EV市場から一時撤退”する流れが見えてきます。
このことから、コムスも同様に「一旦整理」または「法人・自治体向け専用モデルに絞る」段階に入っていると考えられます。
実際の販売状況と今後の展開
現時点で、全国のトヨタディーラーの中には「在庫販売のみ」としている店舗もあります。公式サイトでは販売継続が示されていますが、扱う販売店は限られています。
また、「部品供給は生産終了から7年間」という案内があり、長期的なサポート体制には区切りが設けられています。
一方で、トヨタ車体は2025年に“改良版コムス”を発表しており、法人向けや自治体の移動支援用車両としての利用が中心になる見通しです。宅配、観光、シェアリングなど、地域密着型の用途で再び注目される可能性があります。
コムスが残した功績と意義
コムスは、「小さな電気自動車が日常生活でどこまで使えるか」という社会実験的な意味を持っていました。
実際に導入した企業や自治体では、近距離の宅配・巡回・施設移動などで活躍。CO₂削減や静音性の高さが評価されました。
また、「車を所有する」から「必要な時に使う」へというモビリティシフトを後押しした存在でもあります。
このような実績が、現在の電動バイク、ミニEV、シェアモビリティの礎になっているとも言えるでしょう。トヨタが超小型EV市場から一時的に引いても、その技術と知見は確実に次世代車に活かされています。
購入を検討している人へのアドバイス
もし「今のうちにコムスを手に入れたい」という人がいるなら、以下の点に注意しましょう。
- 新車は販売店によって在庫状況が異なる：まずはトヨタ車体公式サイトまたは取扱ディーラーに直接確認を。
- 中古市場を探す場合：バッテリー残量や充電回数、保管状態を必ずチェック。交換コストが高いため、状態確認は重要です。
- 今後のサポート体制：補修部品の供給期限を確認し、長期的に維持できるかどうかも考慮しましょう。
「安くてかわいい電気自動車」として人気があっただけに、中古価格が上がる傾向も見られます。購入を急がず、状態の良い個体を探すのがおすすめです。
トヨタが次に目指すのは“新しい移動のかたち”
コムスが果たした役割は、決して小さくありません。トヨタはこの経験を通じて、「1人乗りの電動移動体」「街中の短距離EV」「地域インフラとの連携」という新しいモビリティの方向性を探ってきました。
今後は、自動運転やシェアリング、AI連携などを組み合わせた“次世代型モビリティ”への進化が進むでしょう。
その意味では、コムスは“終わり”ではなく、“次のステージへの橋渡し”なのかもしれません。
超小型EVコムスが販売終了に？今後の動きに注目
まとめると、コムスは「完全に販売終了した」というよりも、「販売形態が変化している」「一般向け販売が縮小している」という段階にあります。
背景には市場規模の小ささ、法制度の制約、トヨタグループの戦略転換など、複数の要因が絡んでいます。
しかし、その存在は日本の電動モビリティの歴史に確かな足跡を残しました。
これからも、コムスのような小型EVが再び注目される日が来るかもしれません。都市の足として、そして未来の移動の形として。
超小型EVコムスが歩んできた道のりと、その“販売終了”の背景には、日本のモビリティのこれからを映すヒントが詰まっています。
