「レクサスLSが販売終了するらしい」というニュースが、車好きの間で静かな話題になっています。トヨタの高級ブランド・レクサスの象徴として君臨してきたこのフラッグシップセダンが、なぜ今“終わり”を迎えようとしているのか。この記事では、LSがたどってきた軌跡と、販売終了の背景にある市場の変化、そして今後の展開について丁寧に見ていきます。
36年の歴史を誇るレクサスLSとは
1989年、レクサスブランドとともに登場した初代「LS400」は、当時の高級車市場に大きな衝撃を与えました。高い静粛性、上質な内装、圧倒的な品質の高さで、欧州のメルセデス・ベンツやBMWに真っ向から挑んだ日本発のラグジュアリーセダン。その走りの滑らかさと静粛性は“静寂の移動空間”と称され、トヨタの技術力を世界に知らしめた存在でもあります。
国内ではかつての「セルシオ」として知られ、2006年にブランド統一が行われてからは「レクサスLS」として再出発しました。以降もモデルチェンジを重ね、フラッグシップとしての地位を守り続けてきました。
しかし2020年代に入り、状況は大きく変わり始めます。
レクサスLS販売終了の報道が相次ぐ
2025年以降、海外メディアを中心に「LSが販売終了になる」との報道が増加しました。特にアメリカ市場では、2026年モデルをもってLSの生産を終える見通しが示されています。
米国では「LS500ヘリテージエディション」が限定250台で発表され、「ファイナルモデル」として扱われるとの情報も。36年間続いた歴史に幕を下ろす形です。
一方、イギリスでは2024年に販売終了が公式に確認されています。つまり、北米・欧州ではすでにLSが“終売モード”に入っていると見られています。
日本国内ではまだ公式発表がなく、2026年モデルもカタログ上では継続販売中。ただし、マイナーチェンジ内容は小規模にとどまり、「次のモデルが出ないのでは」と業界内で囁かれているのが現状です。
なぜレクサスLSは販売終了と言われるのか
1. 世界的にセダン人気が低迷
もっとも大きな要因は、グローバル市場で「大型セダン」が急速に売れなくなっていることです。
SUVやクロスオーバーが主流となり、セダンは年々販売シェアを失っています。北米ではかつて高級車の代名詞だったセダンが、今ではニッチな存在になっているのです。
特にLSクラスのようなフルサイズセダンは、駐車スペースや維持コストの面で不利。ライフスタイルが変化し、アウトドアやファミリーユースに適したSUVへと顧客が流れた結果、セダンの存在感は薄れています。
2. 販売台数の急減と採算性の悪化
米国でのLSの販売台数は2025年前半時点でわずか691台。前年比で40%以上の減少という厳しい数字です。
英国でも年間販売台数は数台レベルまで落ち込み、事実上の販売終了状態。これでは生産ラインを維持するコストを回収するのが難しく、撤退は避けられないと判断されたのでしょう。
3. ブランド戦略の再構築
レクサスは現在、ブランド全体の再定義を進めています。かつては「LS=ブランドの頂点」でしたが、今ではフラッグシップの位置づけが変化しつつあります。
トヨタは「センチュリー」をレクサスの上位ブランドとして再構築し、“超高級モビリティ”の新ラインを打ち出しました。これにより、LSの「ブランド象徴としての役割」が薄れつつあるのです。
4. 電動化シフトへの対応
もうひとつの大きな要因は「電動化の波」。
レクサスは2035年までにすべてのモデルをEV化する方針を掲げていますが、現行LSはハイブリッド止まり。BEV(バッテリー電気自動車)へのフル転換を行うには、設計そのものを刷新する必要があります。
このため、現在のLSを終了させ、新たな電動フラッグシップを開発するのではないかと見られています。
日本市場での今後の行方
日本国内では、まだレクサスLSが正式に“販売終了”とは発表されていません。
2026年モデルとして小幅な改良が行われ、エクステリアや内装の質感向上、F SPORT専用キャリパーなどの変更が加えられています。価格帯はおおむね1,100万円〜1,700万円台で維持。
一見すると通常の年次改良のようですが、メーカー側が新開発の噂を出していないことからも、今後の存続には疑問符がつきます。
日本市場はセダン人気が比較的根強いとはいえ、SUVへのシフトは進行中です。
LSを選ぶ層が「より実用的で高級感あるSUV」へと移行しており、販売終了が現実的な選択肢になってきているのは間違いありません。
次期フラッグシップはどんな姿に?
レクサスは次世代のフラッグシップモデルとして、従来のセダン型ではない新しい提案を模索しています。
2025年のジャパンモビリティショーでは、「LSコンセプト」として複数のデザインスタディを発表。中には6輪駆動のモビリティや、クーペSUVスタイルのコンセプトも含まれていました。
この「LS=Luxury Space(ラグジュアリースペース)」という新しい解釈は、単なるクルマではなく“移動する上質空間”を意味するもの。つまり、従来の“セダン”という枠を完全に超えたラグジュアリーの形が模索されているのです。
次世代モデルはEV専用プラットフォームを採用し、自動運転やインテリジェントコクピットを組み込む可能性も高いとされています。
“LS”という名前を残すかどうかは未定ですが、ブランドの哲学そのものは確実に次世代へと引き継がれるでしょう。
販売終了がもたらす影響
ユーザーへの影響
現行レクサスLSオーナーにとっては、販売終了の報道は複雑な心境かもしれません。
ただ、レクサスはアフターサービス体制が非常に充実しており、モデル終了後も長期的にサポートを継続することが予想されます。パーツ供給の心配も当面は不要でしょう。
むしろ「最後のレクサスLS」となることで、将来的な希少価値が上がる可能性もあります。
中古車市場への影響
新車供給が終了すると、中古車市場では一定の需要が生まれます。
特に低走行・上級グレードはコレクター需要が見込まれ、相場が上昇する可能性も。逆に、維持コストや燃費の問題から、一般ユーザーの需要はやや落ち着くと見られます。
ブランドへの影響
レクサスLSの販売終了は、レクサスにとって大きな転換点です。
かつての象徴を手放すことはリスクも伴いますが、その分、新しいラグジュアリーの形を打ち出すチャンスでもあります。ブランド再編の一環として、“脱セダン時代”にふさわしい旗艦を構築する狙いが透けて見えます。
レクサスLS販売終了は時代の転換点
レクサスLSが歩んできた36年は、日本の高級車文化そのものの歴史でもありました。
かつては「静粛性と快適性の象徴」だったレクサスLSが、その役割を終えようとしているのは、時代の変化そのものを映す現象です。
電動化とSUV化、そして“車=移動空間”という新しい価値観。レクサスはその流れを受け入れながら、次の時代にふさわしいフラッグシップを模索しています。
LSという名前が消えるのか、それとも新しい形で生まれ変わるのか——。
その答えが出る日は近いかもしれません。
いずれにせよ、レクサスLS販売終了というニュースは、単なる一車種の終わりではなく、「高級セダン時代の終焉」という大きな転換点を象徴しているのです。
