果樹栽培をしている人なら、一度はお世話になったことがあるであろう「ガットサイドS」。カミキリムシやコスカシバなど、木の内部に入り込む穿孔性害虫の防除で頼りにされてきた農薬です。しかし近年、このガットサイドSが「販売終了になるらしい」という情報が話題になっています。長年使ってきた農家からすれば、突然のニュースに戸惑う声も多いでしょう。この記事では、ガットサイドSの販売終了の背景と、現場で注目されている代替品・対策をわかりやすく紹介します。
ガットサイドSとはどんな農薬だったのか
まずはガットサイドSの特徴を振り返ってみましょう。ガットサイドSは、有効成分「MEP（有機リン系）」を1%含む殺虫剤です。果樹や庭木などに発生するカミキリムシやキクイムシ、コスカシバなどの穿孔性害虫に対して高い効果を発揮することで知られていました。
使用方法もシンプルで、原液または希釈液を樹幹に塗布するだけ。1シーズンに1回の処理で防除が可能な手軽さと、コスパの良さが人気の理由でした。リンゴ、モモ、ミカン、カキ、クリなど幅広い果樹に登録されており、「果樹の守り神」と呼ぶ農家もいたほどです。
なぜガットサイドSは販売終了するのか
では、なぜこの定番農薬が販売終了になってしまうのでしょうか。
背景には「有機リン系農薬」全体への規制強化があります。有機リン系は古くから使われてきた成分ですが、環境や人体への影響が見直される流れの中で、世界的に使用が制限されつつあります。日本でもメーカー各社が順次製造・販売を終了する方向で動いており、ガットサイドSも例外ではありません。
実際、農薬の流通業界では「2026年9月末で販売終了予定」との案内が出ています。つまり、あと1〜2年で市場から姿を消す見通しです。すでに在庫限りになっている地域もあり、「今のうちに買いだめしておこう」という声も聞かれます。
とはいえ、農薬は保存期限や登録年限もあります。無理に在庫を抱えるよりも、代替策を考える方が現実的です。
ガットサイドSの販売終了で困るのは誰？
影響が最も大きいのは果樹農家です。特に、カミキリムシやコスカシバによる被害が多いモモ、リンゴ、カキ、クリなどを栽培している地域では、防除体系の見直しが必要になります。
これらの害虫は木の内部に入り込んで食害するため、外からの薬剤散布では効果が出にくい厄介な相手です。そのため、幹に直接塗布するタイプのガットサイドSは、まさに“最後の砦”のような存在でした。
また、家庭果樹を楽しむ人にとっても痛手です。ホームセンターで手軽に買えた防除剤がなくなることで、「次に何を使えばいいのかわからない」という声が増えています。
ガットサイドSの代替品候補①：バイオリサ〈カミキリ〉スリム
ガットサイドSの代替資材として現在最も注目されているのが「バイオリサ〈カミキリ〉スリム」です。滋賀県などの果樹産地では、この資材を使った防除実証試験が始まっています。
バイオリサ〈カミキリ〉スリムは、薬剤ではなく資材タイプの防除方法です。樹幹に設置することでカミキリムシの成虫を捕獲・抑制する効果が期待されており、化学成分に頼らない「資材防除」として位置づけられています。
メリットは、農薬散布が難しい環境でも使えること。化学農薬に比べて環境負荷が低く、今後の持続可能な果樹栽培にも適しています。ただし、現時点では実証段階であり、ガットサイドSと同等の効果を保証するデータはまだ十分ではありません。
ガットサイドSの代替品候補②：有機リン以外の登録農薬
次に検討されているのが、有機リン以外の系統を持つ殺虫剤です。たとえば、ネオニコチノイド系やピレスロイド系などが挙げられます。これらはガットサイドSと異なり、より環境に配慮した成分が使われており、適用作物や害虫種も広いのが特徴です。
ただし、注意点もあります。有機リン系とは作用機構が異なるため、穿孔性害虫に対しては効果が限定的な場合があります。また、登録作物や使用時期に制限があることも多く、必ず最新の農薬登録データを確認してから使用する必要があります。
特定の害虫に絞った薬剤を併用するなど、複合的な防除体系を構築することが望ましいでしょう。
ガットサイドSの代替品候補③：物理防除・栽培管理の見直し
3つ目の代替策は、薬剤を使わない「物理的防除」と「栽培管理の強化」です。ガットサイドSの販売終了をきっかけに、各地で資材防除や栽培方法の見直しが進んでいます。
具体的には、
- 幹や枝に防虫ネット・テープを巻く
- 成虫の発生時期に合わせてトラップを設置する
- 穴を見つけたら早期に補修・殺虫処理を行う
- 枝の剪定や樹勢管理を徹底する
といった方法です。手間はかかりますが、薬剤に頼らない分、環境にも優しく、長期的には安定した防除効果が期待できます。
実際、「ガットサイドSを塗っても高い位置で食害された」という農家の声もあり、薬剤一本では完全に防げないケースも少なくありません。物理防除と薬剤・資材を組み合わせる「総合防除（IPM）」の考え方が、これからの主流になりそうです。
農家が実践する“複合防除”の考え方
現場で進みつつあるのは、「薬剤＋資材＋管理」の三位一体の防除体系です。
たとえば、次のような手順で組み合わせる方法が提案されています。
- 春先〜初夏にかけて、樹幹に資材を設置して成虫を捕殺する
- 成虫の活動がピークを迎える時期に、代替農薬を選定して散布
- 穿孔痕を早期発見し、手作業で殺虫・補修する
- 剪定や樹勢管理でストレスの少ない樹体を維持
このように、1つの方法に頼らず、複数の手段を組み合わせることで被害を最小限に抑える。これが、ガットサイドSの“後”の時代に求められる防除スタイルです。
販売終了はチャンスでもある
ガットサイドSが使えなくなるのは確かに不便ですが、同時にチャンスでもあります。これまで“当たり前”だった化学農薬依存の栽培から、より環境にやさしく、持続可能な防除へと進化するきっかけになるからです。
代替資材の導入や、害虫の生態に基づいた防除計画の見直しは、短期的には手間がかかるかもしれません。しかし、長い目で見れば安全性・安定性・ブランド価値の面で大きなメリットになります。
ガットサイドS販売終了後の今、できること
もしあなたがガットサイドSを常用していたなら、今すぐに次のステップを考えておくのが賢明です。
- 在庫の確認：自分の手元や取引先にまだ残っているかを確認。
- 代替品の情報収集：メーカーやJAの情報、地域の試験結果をチェック。
- 防除計画の見直し：薬剤だけに頼らず、資材・管理を組み合わせた体系へ。
これらを早めに動かしておくことで、来シーズン以降の被害を防ぎ、安心して収穫を迎えることができます。
ガットサイドS代替品の選び方まとめ
最後に、代替品を選ぶときのポイントを整理します。
- 成分・系統の違いを理解する
- 対象害虫と適用作物を確認する
- 効果と安全性のバランスを取る
- 資材防除・物理防除を積極的に取り入れる
- 地域の実証データや農協の情報を活用する
ガットサイドSのような「万能薬」はもう存在しないかもしれません。しかし、正しい知識と工夫を重ねれば、同等以上の結果を出すことは十分に可能です。
ガットサイドSが販売終了した今こそ、次の一歩を
ガットサイドSの販売終了は、果樹農家にとって大きな転換点です。長年慣れ親しんだ農薬がなくなることは不安ですが、同時に新しい防除技術を取り入れるチャンスでもあります。
「ガットサイドSが使えなくなったら終わり」ではなく、「これをきっかけに新しい栽培スタイルを作ろう」と考える。そんな前向きな発想が、これからの農業を支えていくはずです。
これからは、薬剤・資材・管理の三位一体で果樹を守る時代へ。あなたの畑でも、次の一手を考えてみませんか？
