最近、医療現場で「キシロカインゼリー2%が手に入りにくい」という声を聞いた方も多いかもしれません。
正式には「キシロカインゼリー2%」という医薬品で、表面麻酔や潤滑を目的に多くの医療手技で使われてきた定番製品です。そんなキシロカインゼリー2%が一時的に出荷調整となり、代替品の検討が必要になった時期がありました。
ここでは、出荷調整の背景や、代替品を選ぶときの注意点、安全に使うために知っておきたいポイントをわかりやすくまとめます。
キシロカインゼリー2%とはどんな薬?
「キシロカインゼリー2%」は、有効成分にリドカイン(塩酸リドカイン)を含む表面麻酔薬です。局所の痛みをやわらげる目的で、尿道麻酔や気管挿管時の麻酔、内視鏡検査の際などに使われます。
ゼリー状になっているのは、患部にとどまりやすく、粘膜に密着して麻酔効果を発揮しやすいからです。持続時間はおおよそ30分から2時間程度とされ、比較的短時間で効き目が切れるのも特徴です。
リドカインはアミド型局所麻酔薬に分類され、安全性が高く使いやすい一方で、まれにアレルギー反応や中毒症状を起こすリスクもあります。特に粘膜や広範囲への塗布では吸収が早いため、使用量には注意が必要です。
出荷調整の背景
2024年ごろから、キシロカインゼリー2%が全国的に供給不足となりました。
原因は製造工程の管理上の問題で、一部製品でpH値が規格から外れるケースが発生し、安全性を担保するため製造ラインが一時停止されたことです。
その結果、製造元のマイラン製薬(現ヴィアトリス製薬)は、在庫を限って出荷する「割当出荷」という対応を取りました。
出荷制限の影響は医療現場に広がり、麻酔や潤滑を必要とする手技が多い泌尿器科や内視鏡科では特に深刻でした。
一部の病院では、必要最低限の処置に使用を制限したり、潤滑のみを目的に麻酔成分を含まない製品を使ったりといった対応が行われました。
その後、2025年春に製造ラインが安定し、徐々に出荷が再開。3月には「出荷量通常(A)」へと回復した旨が医療関係者向けに通知されています。
とはいえ、供給が不安定な期間を経験したことで、「万が一また不足したらどうすればいいのか?」という不安は今も残っています。
代替品はある?
公式の通知では「キシロカインゼリー2%の代替品はなし」とされています。
これは、麻酔効果と潤滑性を併せ持つ同等の医薬品が現時点では存在しないという意味です。
ただし、使用目的が「潤滑」なのか「麻酔」なのかによって、実質的な代替候補は異なります。
潤滑目的の代替ゼリー
もし目的が「カテーテル挿入などでの滑りを良くするため」なら、麻酔成分を含まない潤滑ゼリーが選択肢になります。
これらは医薬品ではなく「医療用潤滑剤」や「医療機器」として扱われます。
リドカインを含まないため、麻酔効果はありませんが、パラベンやアルコールを含まず、粘膜への刺激が少ない点が特徴です。
また、滅菌処理されている製品が多く、感染リスクを抑えたい場面に適しています。
ただし、潤滑目的で使用する際は「痛みを軽減する効果がない」ことを理解しておく必要があります。
麻酔目的での代替案
一方、麻酔を必要とする場合には、同じくリドカインを含む別の製剤を使うことがあります。
・キシロカインビスカス2%
・リドカイン外用液、リドカインスプレー
これらもリドカインを主成分とする表面麻酔薬ですが、粘度や適応部位が異なります。
たとえばキシロカインビスカス2%は主に咽頭・口腔麻酔用、スプレーは気管支鏡や鼻腔などへの散布に使われるなど、ゼリーとは性質が違います。
そのため、手技や部位に応じて医師が判断し、適切な剤形を選ぶことが大切です。
代替品を選ぶときの注意点
代替ゼリーを使う際は、次のポイントを必ず確認しましょう。
- 目的を明確にする
麻酔が必要なのか、単に潤滑すればよいのかをはっきり区別します。麻酔成分を含まない潤滑ゼリーを麻酔目的で使うと、痛みを抑えられません。 - 成分と分類を確認する
潤滑ゼリーは「医薬品」ではなく「医療機器」や「雑貨」に分類されることがあります。医薬品ほどの厳格な品質・安全基準が適用されない場合もあるため、信頼できるメーカー製を選ぶことが重要です。 - アレルギーや副作用に注意
リドカインを含む製剤では、過敏症やショックなどの副作用がまれに報告されています。既往歴や体質に応じて医師の判断を仰ぎましょう。 - 使用量を守る
麻酔ゼリーは使用量が多すぎると中毒を起こすことがあります。尿道麻酔などでは用量が明確に定められているので、必ず添付文書や医療者の指示に従いましょう。 - 滅菌の有無を確認する
滅菌済みの潤滑ゼリーを使うことで感染リスクを減らせます。特にカテーテル挿入など、体内に器具を入れる場面では必須条件です。
医療機関での対応と現場の工夫
供給不足の時期、医療機関では以下のような対応が行われました。
・麻酔を必要としない処置では潤滑ゼリーを使用する
・必要な場合のみキシロカインゼリー2%を優先的に使う
・外来・検査室間で在庫を共有し、無駄を減らす
・患者には事前に「麻酔効果がない場合がある」ことを説明する
このように、現場では安全性と効率の両立を目指し、限られた在庫をどう活かすかが課題でした。
現在は出荷が通常化していますが、医薬品の供給リスクはいつ再発してもおかしくありません。今後も在庫管理や代替ルートの確保は大きなテーマです。
一般の人が注意すべきこと
キシロカインゼリー2%は医療用医薬品であり、一般の人が自由に購入・使用できるものではありません。
もし痛みを和らげたい、麻酔効果を得たいという目的で類似製品を探している場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
また、ネット通販などで「麻酔ジェル」「リドカイン入りゼリー」といった商品が販売されていることがありますが、これらの多くは海外製であり、日本国内では医薬品として承認されていません。
成分量が不明確なものや、衛生管理が不十分な製品も存在するため、安易に使用するのは危険です。
供給が安定しても油断は禁物
2025年3月以降、キシロカインゼリー2%の出荷は通常に戻ったとされています。
しかし、今後も原材料の確保や製造工程の見直しなどで、一時的に供給が変動する可能性はあります。
もし医療機関でキシロカインゼリー2%が不足していると言われた場合は、医師が安全に代替できる方法を提示してくれるので、自己判断せず必ず相談しましょう。
まとめ:キシロカインゼリー2%の代替品を選ぶときは慎重に
キシロカインゼリー2%は医療現場で欠かせない麻酔ゼリーですが、一時的に出荷調整が行われたことで、代替品の検討が注目されました。
麻酔が必要なら医師の管理下でリドカイン含有製剤を、潤滑目的なら滅菌済みの潤滑ゼリーを選ぶのが基本です。
見た目が似ていても、成分や効果、安全性は大きく異なります。
供給が安定した今も、代替品を知っておくことは万が一の備えになります。
そして何よりも大切なのは、自己判断での使用を避け、医療専門職の指示に従うこと。
「キシロカインゼリー2%が出荷調整中?代替品の選び方と使用上の注意点」というテーマは、私たちが医薬品を正しく理解し、安全に使うためのきっかけになるはずです。
