映画『ベイビーわるきゅーれ』。このタイトルを初めて聞いたとき、「なんだか不思議な響きだな」と思った人も多いのではないでしょうか。ベイビー(赤ちゃん)とわるきゅーれ(北欧神話の戦乙女)。柔らかくて可愛い言葉と、勇ましい言葉が並ぶ――そのアンバランスさこそ、この映画の世界観そのものです。
今回は、そんな異色の日本映画『ベイビーわるきゅーれ』を実際に観た感想を交えながら、作品の魅力や見どころをたっぷり紹介していきます。
『ベイビーわるきゅーれ』とはどんな映画?
『ベイビーわるきゅーれ』は、2021年に公開されたアクション・コメディ映画。監督・脚本は阪元裕吾、主演は髙石あかりと伊澤彩織の二人。女子高生でありながら殺し屋として生きる二人が、社会に馴染もうと奮闘する物語です。
キャッチコピーは「女子高生、卒業します――殺し屋ですが。」この一文がすべてを物語っています。
登場するのは、明るく元気でちょっとお調子者の“ちさと”(髙石あかり)と、無口で人と関わるのが苦手な“まひろ”(伊澤彩織)。二人は殺し屋組織に所属するコンビで、高校卒業と同時に“社会生活に馴染むこと”を命じられます。
バイトを探したり、アパートを借りたり、普通の女の子のように生活を始めようとするのですが……。人付き合いが苦手で、世間知らずな二人が巻き起こす日常は、思いがけず笑えて、ちょっと切なくて、そして時に過激。そんなギャップの連続がクセになります。
日常×殺し屋のギャップが生む絶妙な笑い
この映画の最大の特徴は、「殺し屋の日常」を描いているところ。
銃撃戦や格闘シーンよりも、コンビニの面接でテンパったり、ゴミ出しのルールを守れなかったりといった“普通の生活”の方にフォーカスしているのが新鮮です。
まひろが面接でまともに受け答えできず落ち込むシーンや、ちさとがテンション高く励ますシーン。殺しの現場では完璧なのに、社会ではポンコツな二人。そんな姿に思わず笑ってしまいます。
監督の阪元裕吾は、インタビューで「殺し屋をリアルに描くより、彼女たちの“人間らしさ”を描きたかった」と語っています。まさにその言葉通り、アクションよりも日常のほうが印象に残るという、珍しいタイプのアクション映画です。
それでいて、緩い空気がずっと続くわけではありません。日常の隙間から、ふいに暴力が顔を出す。例えばヤクザとの抗争が始まる場面では、映画全体のテンポが一気に切り替わり、観ている側も思わず息を飲みます。この「ゆるさ」と「緊張感」の切り替えが絶妙なんです。
髙石あかりと伊澤彩織、対照的な二人が生む化学反応
主演の二人は、まさに正反対のキャラクター。
ちさとは明るくて行動派、まひろは寡黙で内向的。そんな二人が一緒に暮らすことで起こる小さな衝突や和解が、物語に温かさを与えています。
髙石あかりの演じるちさとは、まさに太陽のような存在。どんな状況でも前向きで、まひろを引っ張っていく姿が印象的です。一方の伊澤彩織は、現役スタントウーマンという経歴を活かし、アクションでも存在感を放ちます。無口で不器用なまひろが、戦闘の場面では豹変する――このギャップがたまりません。
二人の掛け合いは、笑いあり、時に涙あり。日常のやり取りがまるで本物の姉妹のように感じられるほど自然で、観ていてとても心地いい。
「友情」と「殺し屋」という、相反する要素を成立させているのは、間違いなくこの二人のバランス感覚にあります。
低予算とは思えないアクションの完成度
『ベイビーわるきゅーれ』は、実は決して大きな予算で作られた映画ではありません。にもかかわらず、アクションの完成度は非常に高い。
特に後半の戦闘シーンは、スピード感・構図・カメラワークのどれを取っても見応え十分。相手を倒す動きのひとつひとつに“現実的な説得力”があります。単に派手なだけでなく、「こうやって戦えば勝てる」というリアリティがあるんです。
伊澤彩織のアクションは、特に圧巻。無駄な動きが一切なく、動作の一つひとつが美しい。髙石あかりも彼女に引っ張られるように、どんどん動きが自然になっていく。
監督はインタビューで「アクションを“カッコよく見せる”のではなく、“本当にできそうに見せる”ことを意識した」と語っており、その方針がしっかり実現されています。
ゆるさと狂気のバランスが絶妙な脚本
脚本の面白さは、“日常と非日常の距離感”の描き方にあります。
ちさととまひろは、世間的にはただの女子高生。でも同時に、殺し屋という裏の顔を持っている。この二面性が物語の根幹を支えています。
二人の会話はまるで友達同士のように軽く、時には漫才のよう。でもふとした瞬間に、冷たい殺意や緊張感が流れる。その切り替えが自然すぎて、観ている側の感情も揺さぶられます。
「日常の笑い」と「裏稼業の残酷さ」。それをどちらも同じ温度感で描けているのは、阪元監督の独特のセンスあってこそです。
映画を支えるサブキャラクターたち
メインの二人以外にも、印象的なキャラクターが多数登場します。
まひろたちの上司的な立場の男性、クセのあるヤクザ、バイト先の同僚など、どのキャラクターも少しズレていて愛おしい。特にヤクザ側の登場人物たちは、どこか憎めない雰囲気で、単なる悪役では終わりません。
全員が“ちょっと変な人たち”で構成されているのに、どこかリアル。まるで日常の延長線にいるような奇妙さが、この映画の世界観を支えています。
シリーズ化によって広がる『ベイビーわるきゅーれ』の世界
本作の人気を受けて、続編『ベイビーわるきゅーれ 2 ベイビー』、そして『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』が制作されました。さらに2024年にはテレビドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』も放送され、シリーズとしての世界観がどんどん広がっています。
面白いのは、どの作品も“前作の焼き直し”ではなく、二人のキャラクターや関係性がちゃんと進化していること。
単なるアクション映画ではなく、「社会に馴染めない若者たちの物語」としてシリーズが育っているのです。だからこそ、一度この世界にハマると、続編も自然と観たくなる。
なぜ『ベイビーわるきゅーれ』が愛されるのか
この作品がここまで支持される理由は、間違いなく“リアルな共感”にあります。
殺し屋という設定は突飛ですが、社会に馴染めず、バイトが続かない、人間関係が苦手――そんな悩みは誰にでもある。ちさととまひろの姿は、現代の若者の縮図でもあります。
彼女たちは決して完璧ではありません。むしろ不器用で、感情をうまく表せず、空回りばかり。けれどもその姿が、観ている人の心を掴む。
「頑張らなくてもいい」「自分のペースでいい」――そんなメッセージを、派手な銃撃戦の中でさりげなく伝えてくれるのが、この映画の優しさです。
『ベイビーわるきゅーれ』レビューまとめ:殺し屋なのに、なぜか愛おしい
『ベイビーわるきゅーれ』は、アクション映画でありながら、同時にヒューマンドラマでもあり、青春映画でもあります。
殺し屋という冷たい世界を舞台にしながら、そこに“生きづらさ”や“友情”といった普遍的なテーマを描いているからこそ、多くの人の心に残る。
ちさととまひろ。二人の不器用で愛おしい日々を描いたこの映画は、笑って、時に泣けて、最後には優しい余韻を残します。
「普通に生きることの難しさ」「他人と支え合うことの大切さ」――そんな想いを、さりげなく教えてくれる作品です。
もしまだ観ていないなら、ぜひ一度『ベイビーわるきゅーれ』を観てみてください。
殺し屋映画なのに、こんなに温かい気持ちになれるなんて。きっとあなたも驚くはずです。
