近年、クラフトジンやプレミアムジンの人気が高まるなかで、愛飲者の間で衝撃が走ったニュースがあります。それが「スター オブ ボンベイ終売」という事実です。上質な香りと奥行きのある味わいで知られたインド由来イメージのプレミアムジンが、なぜ日本市場から姿を消してしまったのでしょうか。本稿では、終売の背景にある要因やブランド戦略の変化を丁寧に紐解きます。
スター オブ ボンベイとはどんなジンだったのか
まず、「スター オブ ボンベイ」は世界的に有名なジンブランド「ボンベイ・サファイア」の上位ラインとして誕生したプレミアムジンです。製造はイギリス・ハンプシャー州ラヴァストーク・ミルの蒸留所で行われ、通常のボンベイ・サファイアが使用する10種類のボタニカルに加えて、さらに2種類の特別な素材を使用していました。
追加されたのは、カルブリア産のベルガモットオレンジピールと、エクアドル産アンブレットシード。これにより、香りはより深く、味わいはまろやかで複雑に仕上がっています。また、蒸留時間を通常よりも長くするなど、製造工程にも手間をかけたこだわりの逸品でした。
アルコール度数は47.5度と高めで、濃厚な香りと味わいを持つため、ストレートやジントニックのベースとしても評価が高かった一本です。ボトルデザインもクラシカルで重厚感があり、ギフト用や特別なシーンで選ばれる“ラグジュアリー・ジン”として人気を集めていました。
終売の報が広まった背景
日本の酒販サイトや輸入酒専門店の間で「メーカー終売」という表記が出始めたのは、2023年頃から。カクヤスや酒テンなど大手小売店でも「メーカー終売」「在庫限り」と明記され、Amazonでも「国内終売品」として再入荷予定なしと記載されています。
SNS上でも「スター・オブ・ボンベイが終売になった」「ボンベイ・サファイア・プレミアクリュに置き換わったのでは？」という声が相次ぎ、愛好家の間で話題になりました。終売後は在庫が急速に減少し、一部では定価を大きく上回る価格で取引されるようにもなっています。
では、なぜこれほど評価の高かったジンが市場から消えたのか。その理由を考察していきます。
終売理由①：ブランド戦略のリニューアルと整理
最も有力とされるのが、ブランド全体の再構築です。ボンベイ・サファイアは世界各国で人気を誇るジンブランドであり、シリーズの中には複数の派生モデルが存在します。その中で、上位ラインとしての「スター オブ ボンベイ」は確かに魅力的でしたが、販売地域や価格帯が限定的で、販売数は伸び悩んでいたとみられます。
近年、同ブランドから新たに「ボンベイ・サファイア・プレミアクリュ」というシリーズが登場しました。これは特定産地のレモンなど、ボタニカルの原産地を明確に打ち出したモデルであり、ブランド全体をより“トレーサブルでサステナブル”な方向へシフトさせる戦略の一環です。
このようなブランドリフレッシュの流れの中で、「スター オブ ボンベイ」は役割を終えたとも言えるでしょう。上位モデルを整理し、よりストーリー性と地域性を重視した商品に置き換えたという解釈が自然です。
終売理由②：高コスト構造と価格帯の問題
スター オブ ボンベイは製造工程が非常に手間のかかるものでした。通常よりも蒸留時間を延ばし、希少なボタニカルを使用するため、当然ながらコストも上昇します。その結果、価格帯は通常のボンベイ・サファイアよりも大幅に高く、一般消費者が日常的に手に取るにはハードルがありました。
さらに、為替の変動や物流コストの上昇が重なり、輸入コストが増大。特にコロナ禍以降、海外輸入酒の輸送費は高騰し、採算が取りづらくなっていました。こうした背景から、日本市場での販売継続が難しくなった可能性が高いと考えられます。
終売理由③：プレミアムジン市場の競争激化
数年前まで“ボンベイ・サファイア=高級ジン”というイメージが強くありました。しかし近年、世界各国で個性豊かなクラフトジンが続々と登場し、プレミアムジン市場は一気に競争が激しくなりました。
国産ではクラフトジン「ROKU」や「季の美」、海外では「モンキー47」などが台頭。これらは地域性やストーリーを重視したマーケティングでファンを拡大しています。結果として、既存ブランドの上位モデルが“埋もれてしまう”状況が生まれたのです。
スター オブ ボンベイも完成度は非常に高かったものの、「既存ブランドの高級版」という印象が強く、クラフトジンのような新鮮さや発見性を打ち出しにくかったと考えられます。
終売理由④：流通在庫と販売効率の課題
輸入酒業界では、販売数量が一定基準を下回ると輸入継続が難しくなるケースがあります。高価格帯のジンは流通在庫が長期化しやすく、在庫回転率が低下すると代理店にとってリスクが高まります。
特にスター オブ ボンベイのようにギフト需要が中心の商品は、年間を通じて安定的な出荷を見込みづらいのが現実です。そのため、一定時期をもって「終売」とする判断は、経営的には合理的な選択といえるでしょう。
「インド産プレミアムジン」という誤解の背景
スター オブ ボンベイは名前から「インド産」と誤解されることもありますが、実際の製造はイギリスです。「ボンベイ（Bombay）」というブランド名は、かつてのインド・ムンバイに由来しており、英国統治時代に広まった“ジン＆トニック文化”を象徴しています。
ブランド側は、エキゾチックなスパイスや香り豊かなボタニカルを通じて“インド的な優雅さ”を表現しており、それが「インド産のような雰囲気を持つプレミアムジン」として受け取られているのです。記事などで言及する際には、「インドをモチーフにした英国製プレミアムジン」というのが正確な表現になります。
終売後の市場動向と入手状況
現在、日本国内ではスター オブ ボンベイの在庫はほぼ枯渇状態です。楽天市場やYahoo!ショッピングでは「終売」「在庫限り」と明記されており、一部店舗では定価を大幅に超えるプレミア価格で販売されています。希少性が高まり、コレクターズボトルとしての価値が上昇している状況です。
また、海外の一部サイトでも「販売終了（Discontinued）」の表示が確認されており、グローバルでも生産自体が終了しているとみられます。今後は「ボンベイ・サファイア・プレミアクリュ」などの新シリーズがブランドの上位ラインとしてその地位を引き継ぐでしょう。
代替となるおすすめジン
スター オブ ボンベイのような“エレガントな香りと深み”を求める方には、次のようなジンが近い印象です。
- ボンベイ・サファイア・プレミアクリュ：ブランドの新上位モデルで、フランス産レモンを使用。より洗練された酸味と香り。
- モンキー47：ドイツ・ブラックフォレスト産。47種類のボタニカルを使用した複雑で芳醇なジン。
- 季の美：京都蒸留所のクラフトジン。和の素材を活かした繊細な味わい。
- ROKU：サントリーが手掛ける国産クラフトジン。桜や柚子など、日本らしい香りが特徴。
いずれもスター オブ ボンベイに通じる上質さを持ちつつ、現在も入手しやすい選択肢です。
スター オブ ボンベイ終売の真相：総括
スター オブ ボンベイが終売となった背景には、いくつもの要因が絡み合っています。
- ブランド再編による上位ラインの整理
- 製造・輸入コストの上昇
- プレミアムジン市場の競争激化
- 販売効率の低下
- 新モデル（ボンベイ・サファイア・プレミアクリュ）への移行
これらを総合すると、単なる販売不振ではなく、「ブランド戦略上の進化のための終売」と見るのが妥当です。
かつてのスター オブ ボンベイは、確かに“ボンベイ・サファイアの頂点”を象徴する存在でした。その華やかで奥深い香りをもう一度味わうのは難しいかもしれませんが、ブランドは常に進化を続けています。新たなラインナップが生まれるたびに、かつての名作を思い出す楽しみもまた、ジン愛好家ならではの醍醐味でしょう。
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