「ストリチナヤ ウォッカが終売になった」と聞いて驚いた人も多いかもしれません。長年バーやリカーショップで見かけてきたロシア発の名門ブランドが、突然姿を消したように感じる──。実際に何が起きているのか、その背景をたどってみましょう。
ストリチナヤとはどんなウォッカ？
まず、「ストリチナヤ（Stolichnaya）」という名前から整理しましょう。
ロシア語で「首都の」という意味を持つこの言葉は、1938年に商標登録されたソ連時代の代表的ウォッカブランドです。
戦後にはラトビア・リガの工場でボトリングが始まり、1970年代にはアメリカ市場へも進出。特にペプシコが輸入を手がけたことでも知られ、ウォッカの国際ブランドとして一気に広まりました。
アルコール度数は約40度。穀物由来のスピリッツをベースに、何度も蒸留・濾過を重ねたクリアな味わいが特徴で、カクテルベースとしても定番。
「首都の名を冠するウォッカ」として、長年“ロシアの顔”のような存在でした。
なぜ「終売」と言われるようになったのか？
ここ数年、「ストリチナヤが店頭から消えた」「入手困難になった」という声が相次ぎました。
その理由は、単純な販売不振やメーカー撤退ではなく、名称変更と流通構造の変化にあります。
2022年、ブランドを展開する「Stoli Group」は、正式に**“Stolichnaya”という名称の使用を終了し、“Stoli”へリブランディング**することを発表しました。
きっかけは、ロシアによるウクライナ侵攻。これにより、世界的にロシア製品ボイコットの動きが広がり、ロシアに由来するブランドがイメージ的な打撃を受けることになりました。
Stoli Groupの創業者ユーリ・シェフラー氏は、ロシア政府への反対を公言しており、ブランドを「ロシアのもの」と誤解されたくない立場を取っています。
このため、ブランド名から“ロシア色”を払拭するための決断として、「Stolichnaya」→「Stoli」へと転換したのです。
つまり、「終売」とは、旧ブランド名“ストリチナヤ”が事実上使われなくなったという意味であり、製品自体は姿を変えて生き続けている、というのが正確な状況です。
世界で進む「脱ロシア化」と流通の混乱
ロシア・ウクライナ情勢を背景に、欧米ではロシア製ウォッカを棚から下ろす動きが一気に拡大しました。
アメリカやカナダの州政府、北欧諸国では「ロシア製品ボイコット運動」が進み、実際に販売中止措置を取る小売店も増加。
しかし実は、ストリチナヤはラトビア製造が中心。原料アルコールもスロバキアなどロシア以外の国から調達されており、「ロシア製ではない」という点が誤解されがちでした。
それでも「名前がロシア語」というだけで販売リスクが生じ、ブランドは名称変更に踏み切ったというわけです。
こうした混乱の影響で、旧ラベル「Stolichnaya」ボトルは各国で徐々に姿を消し、在庫限りの販売へと移行。
「終売」と感じられた背景には、この流通転換期の空白がありました。
商標と所有権をめぐる長年の争い
ストリチナヤを語るうえで欠かせないのが、商標権をめぐる複雑な歴史です。
旧ソ連崩壊後、「Stolichnaya」の商標をめぐり、ロシア政府系企業“ソユーズプラドインポルト”と、オランダ拠点のSPIグループ（現Stoli Group）が長年争ってきました。
ロシア側は「国家が保有するブランドであり、国外企業に権利はない」と主張。
一方、Stoli Groupは「ソ連時代に正当な形で権利を取得した」として対抗。
この訴訟はヨーロッパ各地で繰り返され、2024年3月にはオランダ最高裁がロシア政府側の訴えを棄却するなど、今なお続く法的攻防のひとつの節目を迎えています。
このような国際的商標争いが流通にも影響を与え、国や地域によって「ストリチナヤ」「Stoli」「スタリチナヤ」など異なる表示で販売されるケースも存在します。
日本国内ではどうなっている？
日本では、かつて大手酒類輸入商社を通じてストリチナヤ ウォッカが広く流通していました。
しかし2023年以降、主要ECサイトや百貨店の棚から徐々に姿を消し、代わりに「Stoli Vodka」という表記の商品が見られるようになっています。
現時点で「終売」と公式に発表されているわけではありませんが、実質的には旧名称「ストリチナヤ」での輸入・販売はほぼ停止。
在庫品が市場に残っている間だけ「旧ボトル」が入手可能という状態です。
つまり、日本でも「ストリチナヤ」という名のボトルは今後新たに輸入される見込みが薄く、**“旧ブランド名としての終売”**という理解が正確でしょう。
ブランドは「消えた」のではなく「生まれ変わった」
ブランドの表記が変わったことで混乱もありますが、「Stolichnaya」が完全に消滅したわけではありません。
「Stoli」という新たな名前のもと、Stoli Groupはリブランド後の戦略を強化しています。
・製造拠点：ラトビア・リガ近郊の生産施設
・原料：ヨーロッパ産の穀物・スピリッツを使用
・ブランディング：ロシアとは無関係であることを強調
・環境方針：サステナビリティや多様性を打ち出した国際ブランド展開
旧来の「ロシアのウォッカ」という枠を超え、国際的プレミアムウォッカブランドとしての再構築を目指しているのです。
実際、欧米のバーでは「Stoli Mule」「Stoli Martini」といった名称でカクテルメニューが更新され始めています。
海外市場の動向と今後の展望
海外では、「Stoli」ブランドとしての再スタートが着実に進行中です。
新しいデザインボトルはシンプルでモダンな印象に統一され、これまでの赤いラベルの“Stolichnaya”とは明確に差別化されています。
また、同社は2024年にサイバー攻撃と経営難の影響で米国法人が破産手続きを行ったと報じられましたが、グローバル本体は事業継続中。
むしろ欧州・アジア市場では再構築に力を入れ、ブランド再生の途上にあります。
日本でも、今後は「Stoli」名義の輸入が本格化し、バーや専門店に新ラベルのボトルが並ぶ可能性が高いでしょう。
消費者としては、「ストリチナヤが消えた」のではなく、「名前を変えて戻ってくる」と理解しておくのが正解です。
ストリチナヤ ウォッカ終売か？名称変更が示す時代の転換点
結論として、「ストリチナヤ ウォッカ」は旧名称としては終売に近い状態です。
しかし、製品自体は「Stoli」という新しい姿で世界各国に供給され続けています。
背景には、戦争や国際政治、商標紛争といった複雑な要因が絡み、ひとつのブランドが時代の価値観の変化にどう向き合うかという象徴的な事例になりました。
“ロシア発ウォッカ”というイメージを超え、これからは“グローバルなクラフトウォッカ”として再スタートするStoli。
もし店頭で旧ボトルを見かけたら、それはもう手に入らないかもしれない「歴史の証」かもしれません。
一方で、新しい「Stoli」は、時代とともにブランドがどう変化していくかを感じさせてくれる存在として、再び注目を集めることでしょう。
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