採血や点滴のときに、腕に巻かれる「駆血帯（くけつたい）」。一見どれも同じように見えますが、実際には素材や形状、使いやすさに大きな違いがあります。
医療現場で毎日のように使う道具だからこそ、「どのタイプが扱いやすいのか」「どんな違いがあるのか」を理解しておくと、作業効率や安全性がぐっと変わってきます。今回は、駆血帯の種類や特徴、選び方のポイントをわかりやすく紹介していきます。
駆血帯とは？目的と基本の使い方をおさらい
駆血帯は、採血や点滴などで静脈を浮き上がらせるために、一時的に腕の血流を制限するためのベルトです。
上腕や前腕に巻いて軽く締めることで、静脈の血が滞留し、血管が見つけやすくなります。医療従事者がスムーズに穿刺できるようにする、まさに“縁の下の力持ち”のような存在です。
駆血の目的は「静脈還流の一時的な遮断」であり、動脈血流を完全に止めるものではありません。
巻き方や圧力が強すぎると、血流障害や神経への圧迫が起きるリスクもあるため、適度な圧が大切です。一般的には40mmHg前後が目安とされ、長時間の駆血は避けるようにします。
使用時は、腕を露出して巻き、血管が浮き上がったらすぐに採血・点滴を行い、終了後は速やかに解除することが基本です。
短時間で適切に締め、すぐに外せる構造が求められるため、駆血帯の種類によって使い勝手が大きく異なります。
駆血帯の種類と特徴を比較
ひと口に駆血帯といっても、構造や素材によっていくつかのタイプに分かれます。ここでは、医療現場でよく使われている代表的な種類を整理してみましょう。
ゴムチューブタイプ（従来型）
もっともシンプルなタイプで、天然ゴムや合成ゴムのチューブを腕に巻きつける方式です。
価格が安く、どの施設にも置いてある定番ですが、巻く強さの調整や固定の仕方は慣れが必要。
新品のうちは滑りやすく、固定が甘いと外れてしまうこともあります。
また、天然ゴムはラテックスアレルギーを引き起こす可能性があるため、患者やスタッフに配慮が必要です。
ワンタッチタイプ（リリースボタン付き）
現在、採血室やクリニックなどで人気なのがこのタイプ。ベルト状のバンドにバックルやボタンが付いており、片手で着脱できるのが特徴です。
巻く・外すが素早くでき、駆血の圧も調整しやすいため、作業効率が大幅にアップします。
ラテックスフリー素材の製品も多く、アレルギー対策としても安心。
忙しい現場や、採血人数の多い施設では定番となりつつあります。
シリコンタイプ・抗菌仕様タイプ
シリコン素材の駆血帯は、柔らかく滑りにくいため、患者の肌にもやさしい設計です。
また、表面がフラットで消毒しやすく、感染対策の面でも優秀。抗菌加工が施されたタイプもあり、繰り返し使用しても衛生的に保てます。
色のバリエーションが豊富な製品も多く、小児科や健診現場では「明るいカラーで圧迫感を与えにくい」と好評です。
ディスポーザブル（使い捨て）タイプ
感染対策を徹底する現場では、使い捨てタイプが選ばれています。1本ずつ個包装されているものや、ロール状から切って使うタイプもあります。
交差感染を防ぎ、患者ごとに新しいものを使用できる点がメリットです。
価格はやや高めですが、衛生管理を重視する検診車や訪問採血などで重宝されています。
電子駆血帯・自動制御タイプ（新技術）
一部では、電子制御で圧を一定に保つ「電子駆血帯」も登場しています。
ボタン操作で適切な駆血圧を設定でき、時間や強さを自動管理できる高機能モデルです。
まだ一般の採血業務では普及していませんが、救急や手術、透析など、圧の管理が重要な現場で今後の活用が期待されています。
駆血帯を選ぶときのポイント
数多くの製品がある中で、どの駆血帯が良いかを判断するには、いくつかの基準を押さえておく必要があります。
1. 素材とアレルギー対応
天然ゴム製は伸縮性に優れていますが、ラテックスアレルギーのリスクがあります。
現在は「ラテックスフリー」や「シリコン製」の駆血帯が主流になっており、アレルギー体質の人にも安心です。
2. 巻きやすさ・外しやすさ
ワンタッチタイプは片手で装着・解除できるため、看護師や採血技師から高評価です。
解除レバーやボタンが大きく、操作感が分かりやすいものを選ぶとストレスが少なくなります。
3. 清潔さとメンテナンス
再使用タイプは、使用ごとに消毒や洗浄が必要です。
その点、シリコンや抗菌仕様タイプは清掃しやすく、長期間使っても衛生的。
感染症対策を徹底したい場合は、ディスポタイプを併用するのも一つの方法です。
4. 幅と長さ
一般的には成人用で約45〜50cm、小児用で30cm前後が目安です。
幅が広いタイプは圧力が分散され、締め付け感がやわらぎます。対象者に合わせて選びましょう。
5. コストと使用頻度
大量に使用する施設では、コスト面も無視できません。
使い捨てタイプは安全ですが、単価が高めです。再使用タイプと使い分けることでコストを抑えることができます。
医療現場で人気の駆血帯タイプは？
実際に多くの医療従事者から支持を集めているのは、やはり「ワンタッチ式ラテックスフリー駆血帯」。
ボタンひとつで締め・解除ができ、装着もスムーズ。採血が多い現場では作業時間を短縮できる利点があります。
また、近年は「抗菌シリコンワンタッチタイプ」も人気です。汚れが拭き取りやすく、長期間使っても劣化しにくい点が評価されています。
一方、感染対策を重視するクリニックや検診車では、ディスポタイプの導入が進んでいます。
患者ごとに新しいものを使えるため、衛生管理の面で安心。新型感染症以降は、こうした衛生面を重視した選択が一般化しています。
さらに、透析や長時間の処置が多い現場では、安定した圧を保てるベルト固定型が好まれています。
一度巻けば緩みにくく、患者の不快感も少ないため、医療従事者にも被検者にも優しい設計です。
駆血帯使用時の注意点
いくら良い駆血帯でも、使い方が誤っていると安全性が損なわれます。
使用時には次のようなポイントを意識しましょう。
- 強く締めすぎない（静脈が浮く程度に留める）
- 駆血時間を長くしすぎない（1分以内を目安に）
- 巻いた位置の皮膚変化（蒼白・痛み・しびれ）を確認する
- 使用後は速やかに解除し、止血を確認する
- 再使用タイプは定期的に消毒・劣化確認を行う
また、小児や高齢者、皮膚が薄い人への使用時は特に注意が必要です。
細い血管に合わせて、圧を調整できる柔らかめのタイプを使うと安全です。
駆血帯選びで失敗しないために
駆血帯選びのポイントは、「現場環境」と「使用目的」に合わせることです。
採血室のように回転数が高い場所ではスピード重視、透析や点滴では安定性重視、訪問看護や検診では衛生重視といった具合に、用途によって最適なタイプは変わります。
また、素材やカラーにも注目してみてください。明るい色は清潔感を与え、心理的な圧迫感を軽減します。
シリコンやナイロン製の滑りにくいタイプは、巻き直しの手間が減り、作業効率が向上します。
一方で、価格や在庫管理も現場運用に直結するため、導入コストと使いやすさのバランスを取ることが大切です。
駆血帯はどれがいい？現場に合った一本を選ぼう
駆血帯はシンプルな医療器具のようでいて、使いやすさや安全性には大きな差があります。
ワンタッチタイプ、シリコン製、ディスポーザブルなど、どれを選ぶかは現場の状況や使用頻度によって最適解が異なります。
「素早く巻けて、清潔で、安全に使える」——この3つの条件を満たす駆血帯が、現場にとって“良い”駆血帯といえるでしょう。
毎日の採血や点滴のパートナーとして、自分の手になじむ一本を見つけることが、より快適で安全な医療環境づくりにつながります。
