「アーリータイムズ ブラウンが終売になったらしい」と聞いて、驚いた人も多いのではないでしょうか。
長年バーや自宅で愛飲されてきた定番のバーボンが、なぜ姿を消すことになったのか。
この記事では、ブランドの歴史から所有権の移転、製造体制の変化まで、アーリータイムズ終売の背景を丁寧に掘り下げていきます。
アーリータイムズとは?アメリカを代表する歴史あるバーボン
アーリータイムズは1860年にケンタッキー州で誕生したブランドで、アメリカ最古級のバーボンのひとつです。
創業当初から「早い時期に樽詰めする」という製法を採用していたことが、名前の由来でもあります。
第二次世界大戦後には“アメリカで最も売れたバーボン”と称されるほど人気を博し、多くの家庭やバーの定番として定着しました。
日本でも「アーリータイムズ イエローラベル」「アーリータイムズ ブラウンラベル」といったボトルが長らく流通し、バーボン入門の1本として親しまれてきました。
なめらかな甘みと軽快な香ばしさは、ハイボールにもロックにも合う万能タイプ。
それだけに、終売のニュースはウイスキーファンにとって大きな衝撃でした。
終売のきっかけはブランド譲渡?ブラウン・フォーマンからサゼラックへ
アーリータイムズ終売の背景にある大きな転換点が、2020年のブランド譲渡です。
長年アーリータイムズを所有してきたブラウン・フォーマン社(ジャックダニエルなども保有)が、ブランドをアメリカのサゼラック社へ売却しました。
これにより製造・流通の体制が大きく変わり、従来の日本向けライン(アーリータイムズ ブラウンラベル、アーリータイムズ イエローラベル)は生産終了へと向かっていきます。
ブラウン・フォーマン時代の原酒やブレンドレシピをそのまま維持するのは難しく、サゼラック側で新体制へ移行した結果、既存製品の供給を終える判断になったと考えられます。
つまり、「ブランド自体がなくなった」のではなく、「これまでの仕様・味わいの製品が終了した」というのが実態です。
なぜ“終売”と表現されるのか:日本市場の事情
日本では、2021年ごろから「アーリータイムズ ブラウンラベル」「アーリータイムズ イエローラベル」が順次終売になりました。
輸入代理店の変更も重なり、2022年6月には日本市場での取扱いが完全に終了。
このため、現在は店頭や通販で旧ボトルを見かける機会が急減しています。
一方で、2022年秋からは新仕様の「アーリータイムズ ホワイトラベル」が登場しました。
これはサゼラック社体制でリニューアルされたもので、ブランドとしては継続しています。
ただし、ボトルデザインや味わいは従来品と大きく異なり、往年のアーリータイムズ ブラウンラベルを求めるファンにとっては“別物”と感じることもあるでしょう。
バーボンから“ケンタッキーウイスキー”へ:仕様変更の影響
アーリータイムズが“終売”に追い込まれたもうひとつの要因は、製品仕様の変化にあります。
1980年代以降、コスト削減などの理由から「中古樽での熟成」が一部導入されました。
アメリカの法律では、バーボンを名乗るには“新しい焦がしオーク樽で熟成する”ことが条件。
そのため、アーリータイムズは法的に「バーボン」ではなく「ケンタッキーウイスキー」と表記されるようになります。
とはいえ、日本では長年「アーリータイムズ=バーボン」の印象が根強く残っていました。
その結果、商品表記と消費者イメージのズレが生じ、ブランド戦略の見直しを迫られたのです。
こうした混乱を解消し、新体制で再構築するために一度既存ラインを終売としたという説も有力です。
原酒不足とコスト上昇:世界的なウイスキーブームの影響
近年、世界的なウイスキーブームによって原酒が逼迫しています。
特にバーボンの本場・ケンタッキーでは、熟成用の新樽不足や貯蔵コストの高騰が深刻化。
これにより、長期熟成や大規模供給を維持するのが難しくなってきました。
アーリータイムズはもともと手頃な価格帯で親しまれていたブランド。
しかし、原酒コストの上昇を吸収しきれず、結果として「現行価格での供給を続けられない」という事情も指摘されています。
終売はその一環として、ブランド再構築やコスト再編のための選択でもあったわけです。
プレミアム化と市場再編:消費者ニーズの変化も要因に
アメリカ・日本を問わず、ウイスキー市場は「プレミアム化」の傾向が強まっています。
手頃な価格帯のレギュラーウイスキーよりも、クラフト蒸溜所や限定ボトルなどに人気が集中。
アーリータイムズのような“日常酒”タイプのブランドは相対的にポジションが難しくなりました。
さらに、消費者の嗜好も変化しています。
ハイボール人気の高まりや、スモーキー系シングルモルトの流行など、味わいの多様化が進行。
こうした流れの中で、アーリータイムズの伝統的なバーボンスタイルは“やや古風”に映るようになっていったのです。
ブランド再生のために一度ラインナップを整理する――それが今回の終売の背景にあるとも言えます。
「ブラウン」「イエロー」終売後の動き:新生アーリータイムズへ
サゼラック社の体制下では、アーリータイムズの再構築が進められています。
新たにリリースされたアーリータイムズ ホワイトラベルは、よりライトでモダンな味わいに調整されており、若い層にもアプローチしやすい設計です。
一方で、従来のアーリータイムズ ブラウンラベルを惜しむ声も多く、旧ボトルはオークションや中古市場でプレミア化しています。
ファンの中には「昔の甘く香ばしい味わいが忘れられない」「終売前に買いだめした」という人も少なくありません。
このことからも、アーリータイムズが単なる低価格帯の酒ではなく、長年愛されてきた“文化的なバーボン”だったことがわかります。
アーリータイムズ終売から見えるウイスキー業界の課題
今回のアーリータイムズ終売は、単なる一商品の終了ではなく、ウイスキー業界全体の転換点を象徴しています。
原酒不足・プレミアム化・ブランド再編といった動きは、他のメーカーにも共通する課題です。
たとえば、サントリーやニッカの一部商品でも同様に「休売」「終売」「限定再販」といった対応が続いています。
ウイスキーづくりは時間がかかるため、数年前の判断が現在の供給に影響します。
アーリータイムズの終売も、こうした長期的サイクルの中で避けがたい結果だったと言えるでしょう。
その一方で、ブランドは新体制のもと再出発しており、今後の展開に期待が集まっています。
アーリータイムズ ブラウン終売の理由と今後の展望
改めて整理すると、アーリータイムズ ブラウン終売の理由は次のような複合要因によるものです。
- ブランド譲渡による製造・流通体制の変更
- コスト増と原酒不足による供給制約
- “バーボン”表記問題など仕様上の制限
- 日本市場における代理店切り替え・再編
- プレミアム志向の高まりによるブランド戦略の見直し
これらが重なり、長く親しまれてきたアーリータイムズ ブラウンラベル・アーリータイムズ イエローラベルは姿を消しました。
しかし、アーリータイムズというブランド自体は新しいステージへと歩みを進めています。
アーリータイムズ ホワイトラベルをはじめ、今後もリニューアルされた形で私たちの前に戻ってくる可能性は十分にあります。
かつてのアーリータイムズを懐かしむ人も、新しい味に出会いたい人も。
変化の中にあるこのブランドを見守りながら、ウイスキーの世界の広がりを楽しんでいきたいものです。

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