「北杜ウイスキー」という名前を聞いたことはありますか?
サントリーが2000年代に送り出した国産ウイスキーの中でも、実は知る人ぞ知る存在。竹炭濾過という独自の製法で仕上げられ、白州蒸溜所の原酒を活かした上質な味わいで人気を集めました。
そんな北杜ウイスキーですが、今では“終売(しゅうばい)”となり、店頭ではほとんど見かけなくなっています。今回は、その生産終了の理由や背景、そして今も入手できる販売店について詳しく紹介します。
北杜ウイスキーとは?白州蒸溜所ゆかりの竹炭濾過モルト
北杜ウイスキーは、サントリーが2004年に発売したピュアモルトウイスキーです。
ブランド名の「北杜」は、山梨県北杜市――白州蒸溜所がある地域名から取られています。ちょうど同年、旧・白州町を含む周辺地域が合併して「北杜市」が誕生したことを記念して登場したのがこの一本でした。
代表的なボトルは「北杜12年」。白州モルトをベースに、サントリー独自の“竹炭濾過”技術で仕上げられた、柔らかくまろやかな味わいが特徴です。
この竹炭濾過とは、孟宗竹を炭化した竹炭の層を通して原酒をろ過することで、雑味を取り除き、口当たりの良さとすっきりした後味を生み出すというもの。サントリーが特許を取得している独自技術でもあります。
味わいは“飲みやすさ重視”。白州由来の爽やかさに加え、軽やかな甘みと香ばしさが共存しており、食中酒としても楽しめる仕上がりでした。
同シリーズにはアルコール度数50.5度の「北杜50.5°」もあり、こちらはブレンデッドタイプで力強いコクを感じられる一方、竹炭濾過のおかげで飲み口はやはりスムーズ。サントリーらしい繊細な設計が光るウイスキーでした。
なぜ北杜ウイスキーは終売になったのか?
2004年に発売された北杜ウイスキーは、残念ながら2010年前後に生産終了となりました。
発売からわずか6年という短命で姿を消した背景には、いくつかの要因が重なっています。
原酒不足による生産体制の限界
第一の理由は「原酒不足」です。
サントリーの白州蒸溜所では、同社を代表する「白州」「山崎」「響」などの人気ブランドが次々と需要を伸ばしていました。
しかしウイスキーは仕込んでから熟成まで最低でも10年以上の時間が必要です。2000年代後半のウイスキーブームによる需要急増に対し、供給が追いつかなくなったのです。
結果として、限られた原酒をどのブランドに配分するかという選択が必要になりました。
サントリーは主力ブランドである「白州」や「響」への供給を優先し、比較的新しいブランドだった北杜ウイスキーシリーズの生産を終了するという決断を下したとみられます。
ブランドの立ち位置と市場競争
もう一つの理由は、ブランドのポジショニングの難しさです。
北杜ウイスキーは「飲みやすいピュアモルト」というコンセプトで登場しましたが、当時は竹鶴12年などの強力な競合が存在しました。
白州や山崎に比べるとブランドの知名度が低く、価格帯も中間層。結果として市場で埋もれてしまい、販売面でも苦戦を強いられたと考えられます。
また、「北杜50.5°」はキリンの「富士山麓 樽熟50°」とコンセプトが似ており、比較されることも多かった製品です。ブレンデッドでありながら個性的な味わいを打ち出したものの、消費者の印象に残りにくかったという声もあります。
サントリーの戦略転換とハイボールブーム
2008年以降のハイボールブームも、北杜ウイスキーブランドの継続を難しくしました。
「角瓶ハイボール」の大ヒットで、サントリーは手頃な価格帯の商品に原酒を大量供給する必要が生じました。
このとき、原酒を多く必要とする北杜ウイスキーブランドを維持するより、主力ブランドへの集中を優先したのは当然の流れだったでしょう。
こうして北杜ウイスキーは、静かに市場から姿を消していきました。
とはいえ、わずか6年間の命だったとはいえ、その完成度と味わいは今でも多くのファンに記憶されています。
北杜ウイスキーの味わいと魅力を振り返る
北杜ウイスキーの最大の特徴は、やはり竹炭濾過による「透明感あるまろやかさ」です。
白州の爽やかなモルト香に、ほんのり甘いバニラやナッツの香りが重なり、後味はキレがありながらも優しい。
アルコール度数43度ながら飲み疲れしない軽やかさがあり、初心者でも楽しめる設計でした。
「北杜50.5°」のほうは、より力強いモルト感とスパイシーな余韻が印象的。
高めの度数ながら、竹炭濾過のおかげで角の取れたまろやかさを感じられるのが魅力でした。
ラベルデザインも特徴的で、北杜市の山並みを思わせる深いグリーン。
白州蒸溜所の自然や清流を象徴するようなデザインが、ボトル全体に高級感を与えていました。
終売後の流通状況と市場価格の推移
終売から10年以上が経った今、北杜ウイスキーは非常に希少なボトルとなっています。
定価は発売当初で2,000円台半ばでしたが、現在はその10倍以上の価格で取引されることも珍しくありません。
専門の酒販店やオークションサイトでは、状態の良い未開封ボトルが3〜5万円前後で出品されています。
一部の店舗では「終売品/希少ボトル」として限定在庫を販売しており、在庫は常に少量。古酒市場でも注目度の高い一本です。
買取専門店では「北杜12年」を高価買取対象として扱っており、人気シリーズの一角として再評価されています。
中には「白州原酒を使った幻のピュアモルト」として紹介するサイトもあり、マニアの間ではコレクターズアイテム化が進んでいます。
北杜ウイスキーを今も購入できる販売店
現在、北杜ウイスキーを新品で入手するのは難しいものの、いくつかのルートで見つけることができます。
- 専門酒販店の在庫品
希少ウイスキーを扱う専門店では、「北杜12年 660ml 終売品」として在庫を持っている場合があります。
ただし在庫数はごくわずかで、価格も3万円〜5万円程度が相場です。品質保証がないケースも多く、購入時には液面やキャップの状態を確認することが大切です。 - 中古市場・オークション
ヤフオクや楽天オークションなどでも、北杜ウイスキーシリーズが出品されることがあります。
ただし保存状態が不明なものや、リフィルボトル(再充填)なども存在するため、信頼できる出品者を選ぶことが重要です。 - 買取・販売専門サイト
ウイスキー買取専門店の中には、再販用の在庫を持つケースもあります。
販売ページで「在庫あり」「要問い合わせ」と記載されている場合は、直接問い合わせてみるとよいでしょう。
終売品ゆえに偽物のリスクもゼロではありません。
キャップやラベルの印刷状態、液面低下の度合いなどをよく確認し、正規品かどうか慎重に見極めるのがポイントです。
北杜ウイスキー終売の意味と今後の可能性
北杜ウイスキーの終売は、単なる一商品の終了ではなく、日本のウイスキー史の中でも象徴的な出来事です。
なぜなら、2000年代半ばという早い段階で、サントリーが“地域と連動したブランドづくり”に挑戦した貴重な例だからです。
白州蒸溜所の名前を冠さず、地域名「北杜」を前面に出したこの試みは、地方発のウイスキーブランドとして非常にユニークでした。
結果的に短命には終わりましたが、北杜ウイスキーシリーズは“飲みやすさと技術力の融合”というコンセプトを示した存在でもあります。
今後、サントリーが同地域で新たな限定ボトルを出す可能性はゼロではありません。
白州ブランドが好調を維持する中で、「北杜」の名が復活する日を期待するファンも多いようです。
終売した北杜ウイスキーを探すなら今がチャンス
終売からすでに十数年が経過し、北杜ウイスキーはますます希少化しています。
市場では在庫が減り続け、価格も年々上昇傾向。
もし「一度は飲んでみたい」「コレクションとして持っておきたい」と考えているなら、今のうちにチェックしておくのが賢明です。
竹炭濾過によるまろやかで透明感のある味わいは、他の国産ウイスキーにはない独特の魅力。
終売となった今だからこそ、その価値を改めて感じられる一本です。
北杜ウイスキーは、日本のウイスキー文化の中で一瞬だけ輝いた“幻の名作”。
そのストーリーと味わいを知ることで、きっとあなたのウイスキー時間が少し豊かになるはずです。

コメント