「琥珀の時間」という名前を聞いて懐かしさを感じる人も多いかもしれません。長年、飲食店で静かに愛され続けたアサヒビールのクラフトスタイル・ラガー「琥珀の時間」が、ついに終売を迎えました。この記事では、なぜこのビールが販売終了となったのか、その背景を丁寧にひもときながら、同じような香ばしさやコクを楽しめるウイスキーを3本紹介していきます。
琥珀の時間とは?香ばしさと深みのある“飲み飽きない”ビール
「琥珀の時間」は、アサヒビールが展開していた「TOKYO隅田川ブルーイング」ブランドの一銘柄で、1996年に誕生しました。スタイルはミュンヒナー・デュンケル。つまり、濃色麦芽を贅沢に使ったラガービールです。
その名のとおり、琥珀色の輝きと香ばしい麦芽の香りが印象的で、「黒ビールは苦手だけど、琥珀の時間は飲みやすい」と評判でした。焦げ感のあるロースト香、軽やかな苦味、ほどよい甘味のバランスが絶妙で、食中酒としても万能。特にビール愛好家の間では「隠れた名作」として語り継がれる存在でした。
2018年には「麦芽使用量を増やしてより味わい深く」とリニューアルされ、全国の飲食店で樽生(10L)として提供。アサヒの中でも特に“専門店向けの限定ライン”として、静かに人気を集めていたのです。
終売の理由:なぜ琥珀の時間は消えてしまったのか?
公式な発表では「終売理由」は明示されていません。しかし、複数の飲食店が「メーカー終売のため在庫限り」と告知を出しており、残り樽数をカウントダウンする投稿も確認されています。
ここから推測される背景には、いくつかの業界的な要因が絡んでいると考えられます。
1. 飲食店専用の樽生ビールであったこと
「琥珀の時間」は一般向けの缶・瓶ではなく、樽生10L規格のみで提供されていました。業務用ビールの世界では、店舗の設備投資や在庫管理、樽の回収・洗浄コストなどが大きな負担となります。近年はクラフトビールの種類も増え、仕入れ先を分散させる店舗が増加。その中で「琥珀の時間」のような定番樽の需要が減少した可能性があります。
2. ビール市場全体の縮小とブランド再編
アサヒビールはプレミアム路線の再構築を進めており、「TOKYO隅田川ブルーイング」シリーズも限定ブランドとして整理されています。コロナ禍以降、業務用酒類全般の需要が減少したことも重なり、ブランド統合の一環として「琥珀の時間」が終了したと考えられます。
3. 原材料と生産コストの上昇
麦芽・ホップ・燃料費の高騰が続く中で、限定的な流通の樽生商品はコスト面で厳しい立場にあります。採算性や効率化の観点から、生産ラインの見直しが行われた可能性も高いでしょう。
4. クラフトビール市場の競争激化
全国各地でクラフトブルワリーが乱立する中、「琥珀の時間」のような中規模ブランドは立ち位置が難しくなりました。個性的なクラフトビールや地ビールに押され、飲食店が“地元の味”を優先する流れも強まっています。結果的に、全国ブランドとしての役割を終えたのかもしれません。
ファンの声:「あと1樽だけ」「最後の1杯を大切に」
終売が告知された後、SNSでは惜しむ声が相次ぎました。
「香ばしい麦の香りが恋しい」
「この味がなくなるなんて信じられない」
「最後の1杯をゆっくり味わいました」
中には、店内に「残り2樽」「あと40杯」と掲示した店舗もあり、常連客が“飲み納め”に訪れる姿も見られたようです。長年のファンにとって、「琥珀の時間」は単なるビールではなく、思い出の味でした。
琥珀の時間の味わいをウイスキーで楽しむなら?
「琥珀の時間」の特徴は、ロースト麦芽の香ばしさと、ほのかな甘味・苦味のバランス。このニュアンスをウイスキーで再現したい人に向けて、似た味わいを持つウイスキーを3本紹介します。
1. サントリー 山崎 ノンエイジ
フルーティーで華やかな香りの中に、オーク樽由来の軽やかなスモーキーさがあり、焦がし麦芽に通じる香ばしさを感じます。口当たりが柔らかく、ビール好きでも飲みやすい1本です。
2. バランタイン 12年
モルトの甘味とトースト香が調和する定番ブレンデッド。香ばしさの中にほんのりとした蜂蜜のようなコクがあり、「琥珀の時間」の余韻に近い印象を受けます。水割りやハイボールにしても香りがしっかり残ります。
3. グレンフィディック 15年 ソレラリザーブ
熟成樽をブレンドしたことで生まれる複雑な甘香ばしさと、シェリーのまろやかさが魅力。麦芽由来の深みを残しつつ、スムーズな口当たり。琥珀色の液体がグラスに映えるその見た目も、「琥珀の時間」を思い出させます。
これらはいずれも「香ばしさ」と「まろやかさ」を併せ持つウイスキー。ビール党の人にも受け入れられやすく、食中にも合うスタイルです。
琥珀の時間が残したもの:職人の誇りと“飲む時間”の贅沢
「琥珀の時間」という名前には、単なる色や風味以上の意味が込められていました。
それは“日常の中にある、少し贅沢な時間”。
忙しい仕事終わりに、静かにグラスを傾けるひととき。
仲間と語らう時間、ひとりで味わう時間。
そうした「時間の質」を大切にしてきたビールだったからこそ、終売のニュースに多くの人が寂しさを感じたのでしょう。
クラフトビールやウイスキーの世界は今、かつてないほど多様化しています。お気に入りの味が消えてしまっても、その精神や香りを受け継ぐお酒は、必ずどこかにあります。「琥珀の時間」がくれた“香ばしい記憶”を胸に、次の一杯を見つける旅を楽しむのも一つの醍醐味です。
琥珀の時間 終売まとめ:再販の可能性は?
現時点でアサヒビールから「琥珀の時間」再販の予定は発表されていません。ただし、クラフトビールファンの間では「限定復刻してほしい」という声も多く、今後“TOKYO隅田川ブルーイング”シリーズの新展開に合わせて、類似スタイルの新商品が登場する可能性は十分あります。
もし再び「琥珀の時間」の名が戻ってきたなら、そのときこそ本当の“再会の時間”。
それまでは、紹介したウイスキーたちを片手に、あの香ばしい余韻を思い出してみてください。
琥珀の時間が終売に——でも、香りや想いは生き続ける。
時代が変わっても、私たちの中に残る「琥珀の時間」の瞬間は、決して消えることはありません。

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