「ドランブイ、もう売ってないの？」——そんな声がここ数年、SNSや酒好きの間で増えている。かつてバーの定番カクテル「ラスティ・ネイル」に欠かせなかった名リキュール、ドランブイ。突然姿を消した理由や、再び手に入る可能性はあるのだろうか。この記事では、ドランブイ終売の背景や今後の展望について、わかりやすく掘り下げていく。
そもそも「ドランブイ」とはどんなお酒？
ドランブイ（Drambuie）は、スコットランド生まれのウイスキーベースリキュール。スコッチウイスキーにハチミツ、ハーブ、スパイスを加えた豊かな香りと甘みが特徴で、独特の深い黄金色が印象的だ。
起源は18世紀にさかのぼり、スコットランドの王子チャールズ・エドワード・スチュアートにまつわる秘伝レシピがもとになっているといわれている。長らくマッキノン家が製造を担い、2014年に名門ウィリアム・グラント＆サンズ社がブランドを買収。世界的に知られるスコッチリキュールとして愛されてきた。
日本でも、かつてはサントリーが正規輸入を担当し、バーや量販店で普通に見かける存在だった。しかし近年、その姿をほとんど見かけなくなってしまった。
「終売」とは？実際に何が起きたのか
まず前提として、メーカーや輸入元が「ドランブイを日本市場から完全撤退します」と公式に発表したわけではない。ただし、実際の流通状況を見ると、ほぼ「終売状態」にあるのは間違いない。
酒販店やECサイトでは「在庫限り」「終売品」「並行輸入品も入荷未定」といった表記が目立ち、正規輸入ルートでの新規入荷は確認できていない。サントリーの「製造終了商品一覧」にも過去の取扱終了製品として掲載されていた時期があるとされ、現在は国内での供給がほぼ途絶えている状況だ。
SNSでも「どこにも売ってない」「在庫を探しても見つからない」といった投稿が相次ぎ、愛飲者の間で話題となった。
ドランブイが終売になったとされる主な理由
① 販売量の低下と市場縮小
もっとも大きな要因は、やはり販売量の低下だ。ドランブイは一時期、ウイスキー人気とともに定番のリキュールとして親しまれていたが、近年は市場環境が大きく変わった。
クラフトジンやプレミアムウォッカ、リキュールよりも“シンプルな蒸留酒”を好む流れが世界的に進み、ハーブ系リキュールの需要は減少傾向にある。日本では特に「ハイボール」「クラフトジン」ブームが続いており、ドランブイのような重厚で甘いリキュールの出番が減ったと考えられる。
その結果、輸入・販売コストに対して収益性が合わず、輸入元が取り扱いを停止した可能性が高い。
② 輸入コスト・為替・流通コストの上昇
ここ数年の円安傾向や物流費の高騰も影響したとみられる。特に洋酒の輸入は為替の影響を受けやすく、販売量が限られているブランドほどコスト負担が重くなる。
また、酒税や保管コスト、法令表示対応など、日本市場特有の管理コストも無視できない。こうした要素が重なり、「扱いを続けるメリットが少ない」と判断された可能性がある。
③ ブランド戦略の変更・輸入元契約の終了
ドランブイを所有するウィリアム・グラント＆サンズ社は、世界的に「グレンフィディック」「バルヴェニー」「ヘンドリックス・ジン」などの主力ブランドを持つ企業だ。その中で、販売規模の小さいドランブイをグローバル展開から縮小する戦略を取った可能性がある。
日本市場においても、サントリーが過去に取り扱いを終了した後、新たな正規輸入代理店が現れていない。つまり、供給ルート自体が途絶えてしまった形だ。
④ 原酒・原材料の供給難
ドランブイのレシピは、熟成スコッチウイスキーに複数のハーブやスパイス、ハチミツを加えるというもの。ここで使われるウイスキーの確保が難しくなった可能性もある。
世界的なウイスキーブームによる“原酒不足”は、多くの蒸留所が抱える課題だ。原酒を確保できなければ、リキュールの生産量にも影響が出る。特にブレンドにこだわるブランドほど、安易な代替はできない。ドランブイもそのあおりを受け、生産量を絞っているという説がある。
⑤ 消費者嗜好の変化とカクテル文化の衰退
かつて「ラスティ・ネイル」や「スコッチトディ」など、ドランブイを使ったカクテルはバーの定番だった。しかし、近年はシンプルなストレートやハイボールが主流となり、甘みの強いリキュールを使うカクテルの注文が減っている。
若年層を中心に「アルコール度数の低い、軽い味わい」を求める傾向もあり、結果的にドランブイのようなクラシックリキュールが時代に合わなくなってしまったともいえる。
「再販」の可能性はあるのか？
現時点では、ブランド側や輸入元から再販の正式発表は出ていない。ただし、完全に生産が終わったわけではなく、海外では限定的に流通している地域もある。そのため、今後市場動向次第では再輸入の可能性もゼロではない。
一方で、再導入する場合は、価格が大幅に上がる可能性もある。為替や物流コストの影響に加え、希少性が高まっているため、従来のように手軽に購入できるリキュールではなくなるだろう。
今、入手できる方法と注意点
国内で新品を入手するのは難しくなっているが、以下のようなルートが残っている。
- 在庫を持つ酒販店やバーに問い合わせる
長年洋酒を扱う専門店では、旧在庫を保管している場合がある。 - 並行輸入・個人輸入を利用する
海外通販やオークションで出回っていることもある。ただし偽物や品質劣化品に注意。 - 中古市場（メルカリなど）で探す
未開封の旧ボトルが出品されることもあるが、保存状態や真贋は自己責任となる。
特にリキュールは開封後の劣化が早いため、未開封品であるか、ラベルや液色に変化がないかをよく確認することが大切だ。
代替リキュール・代わりになる味わい
ドランブイの代替としてよく挙げられるのは、ハチミツやハーブを使った甘口のリキュール類。ただし、ドランブイ特有の「スコッチ由来の深い香り」「スパイスの複雑さ」を完全に再現するものは少ない。
- ベネディクティン
ハーブ・スパイス系で甘みの方向性が似ている。 - メーカーズマーク や ジャックダニエル のハニーなど、手に入りやすく代替しやすい。
- オリジナルカクテルをアレンジ
ドランブイが手に入らない場合、ウイスキーにハチミツとハーブリキュールを加えて「自作ラスティ・ネイル風」を試す人もいる。
代替品を選ぶ際は、「ハーブの苦み」と「蜂蜜のまろやかさ」のバランスに注目すると、より近い味に仕上げやすい。
ドランブイ終売が示す時代の変化
ドランブイの終売は、単にひとつのブランドが姿を消したという話ではない。そこには、時代とともに変化する「お酒文化」そのものが映し出されている。
一昔前は「重厚で甘いリキュール」が贅沢とされ、バー文化の象徴だった。しかし今は、ライトでドライな味わい、健康志向、家飲み文化の拡大など、嗜好が大きく変わっている。ドランブイの終売は、そんな時代の転換点を象徴する出来事なのかもしれない。
ドランブイ終売の背景と今後の展望まとめ
ドランブイが日本市場から姿を消した理由は、販売量の低迷、輸入コストの上昇、ブランド戦略の見直し、原酒不足、そして時代の嗜好変化といった複数の要因が重なった結果だと考えられる。
現時点では再販の動きは確認できないものの、世界的なクラシックリキュール再評価の流れが起これば、再びスポットライトを浴びる可能性もある。もし再登場するなら、プレミアムラインや限定版という形での復活が現実的だろう。
ドランブイは、単なるお酒ではなく「時代の記憶」をまとった存在だ。終売という言葉の裏には、飲む人々のライフスタイルや文化の変化が映し出されている。今後またその味わいに再会できる日を、静かに待ちたい。
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