「ロングモーン16年が終売した」というニュースを耳にして、ショックを受けた人も多いのではないでしょうか。スコットランド・スペイサイドの名門蒸溜所が生み出したこの一本は、愛好家の間で「地味だけど完成度が高い」と評され、静かな人気を誇ってきました。
そんなロングモーン16年がなぜ市場から姿を消したのか。その背景と味の魅力、そして次に選ぶべきウイスキーをじっくり解説します。
ロングモーン16年とは？蒸溜所の歴史と位置づけ
ロングモーン蒸溜所は1894年、スペイサイド地方のモレイ地区に設立されました。
現在はペルノ・リカール傘下のシーバス・ブラザーズが所有し、ブレンデッドウイスキーの原酒供給でも重要な役割を担っています。
実はこの蒸溜所、長い間シングルモルトとして表舞台に立つことが少なく、主にブレンド用モルトとして評価されてきました。そのため、ロングモーン16年は「隠れた名酒」として知る人ぞ知る存在。蒸溜所の個性をじっくり味わえる貴重なボトルでした。
ボトルはアルコール度数48％前後、熟成期間16年。重厚でありながらも柔らかさを感じさせる、スペイサイドらしいエレガンスを持っています。
終売の理由と時期 ― なぜロングモーン16年は姿を消したのか？
ロングモーン16年の終売が話題になったのは、2010年代半ば。海外フォーラムでは「ペルノ・リカールが16年表記を廃止し、後継ボトルを検討中」といった投稿が2015年頃に見られます。
公式からの明確な発表はありませんが、いくつかの要因が重なったと考えられています。
- 原酒不足と長期熟成の難しさ
世界的なウイスキーブームで長熟原酒の確保が困難になり、16年以上の熟成を維持するのが難しくなった。 - ブレンド用原酒の需要増
ロングモーンはシーバス・リーガルなどのブレンドにも使われており、シングルモルトとしての出荷量を減らす必要があった。 - ブランド戦略の転換
長熟表記よりもノンエイジ（NAS）ボトルへ移行し、価格帯を調整する流れが業界全体で進んでいた。
これらが重なり、ロングモーン16年は「終売」となりました。
現在では流通在庫のみが細々と販売されている状態で、プレミア価格に高騰しています。かつて1万円前後で買えたものが、今や倍以上の価格で取引されることもあります。
ロングモーン16年の味わい ― 愛され続けた理由
ロングモーン16年がここまで惜しまれるのは、その味わいの完成度にあります。
香りをひと嗅ぎすると、梨やリンゴのようなフルーティーさ、ドライアプリコットやハチミツ、ナッツの香ばしさが柔らかく広がります。
味わいはアプリコットジャムやトフィー、ローストナッツ、スパイスが調和し、奥行きのあるコクが特徴。
フィニッシュは長く、オークやシダーのウッディーな余韻が続きます。
甘すぎず、かといって辛口でもない。熟成による厚みとキレのバランスが絶妙で、どこかコニャックのような上品さも感じられます。
スモーキーさは控えめで、スペイサイド特有のやさしい果実味が中心。
これが「穏やかで飲み飽きない」「派手さはないけれど完成度が高い」と称される理由です。
終売の衝撃 ― ファンが感じた喪失感
ロングモーン16年の終売は、ウイスキー愛好家にとってまさに「静かな衝撃」でした。
スコッチの定番ブランドではなく、どちらかと言えば“知る人ぞ知る”存在だったからこそ、その消失は深い余韻を残しています。
SNSや掲示板では、
「地味だけど一番好きだった」
「もっと買っておけばよかった」
という声が多く、コレクターの間では未開封ボトルが高値で取引されるケースもあります。
終売のニュースが「手の届かなくなる前に飲んでおきたい」という需要を刺激し、残された在庫が一気に減っていったという背景もあります。
これこそが「終売の衝撃」と言えるでしょう。
終売のあとにできること ― 代替ウイスキーを探そう
とはいえ、嘆いてばかりはいられません。
ロングモーン16年に近い味わいや世界観を持つウイスキーを探すのも、ウイスキー愛好の楽しみの一つです。
ここでは、風味や熟成年数、スタイルの近い銘柄をいくつか紹介します。
グレンリベット18年
スペイサイドの代表格で、果実とバニラのバランスが秀逸。ロングモーン16年の柔らかいフルーティーさが好きな人には特におすすめです。
アベラワー16年／18年
シェリー樽熟成による濃厚な香りと甘みが特徴。ナッツやドライフルーツの要素が強く、ロングモーン16年よりもリッチな印象を楽しめます。
グレンフィディック18年
定番ブランドながら、オークの香ばしさとドライフルーツの落ち着いた甘みが見事。長熟スコッチらしい余韻を求めるなら外せません。
クラガンモア12年
熟成年数は少し短いものの、スペイサイドの穏やかな個性と繊細なバランスが魅力。日常的に飲みやすい一本です。
トマーティン18年
ややハイランド寄りですが、ナッツやバニラ、木樽の深みがあり、熟成感の方向性はロングモーン16年と近いと評されます。
これらはすべて、ロングモーン16年の「果実＋オーク＋熟成香」という世界観を受け継ぐウイスキーたち。
どれも個性があり、飲み比べることで改めてロングモーン16年の完成度を再確認できるでしょう。
ロングモーン16年が残したもの
ロングモーン16年の終売は、単なる「1本のウイスキーの終了」ではありません。
それは“職人気質の蒸溜所が生み出した静かな傑作”が時代の流れに消えていく象徴でもあります。
大量生産やブランド再編が進む中、こうした伝統的な16年熟成のモルトが姿を消すのは寂しいこと。
しかし同時に、ウイスキーの世界が新たな表現を求めて進化している証でもあります。
もしかすると、ロングモーンは今後、新しい形で復活するかもしれません。
かつて「終売」と言われた銘柄が限定版や新ボトルで戻ってくることは珍しくありません。
その日を期待しつつ、今あるボトルを大切に味わうのもまた一つの楽しみです。
ロングモーン16年終売の衝撃を超えて ― 次の一杯へ
ロングモーン16年が終売した今、その香りと味わいは多くの人の記憶に残り続けています。
果実のように華やかで、オークのように深みがあり、余韻が長く優しい。
それはまるで、時間を閉じ込めた一本の詩のよう。
終売という事実は悲しいけれど、その存在が消えるわけではありません。
あなたの中に残った「ロングモーン16年の記憶」を、次に選ぶウイスキーと重ねながら楽しんでみてください。
そしていつか、あの穏やかな味わいを超える一本に出会えたとき――
きっとあなたは、もう一度ロングモーン16年を思い出すはずです。
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