「えっ、富士山麓って終売したの?」
そんな驚きの声がウイスキー愛好家のあいだで広がっています。キリンのロングセラーブランド「富士山麓」は、手ごろな価格で本格的な味わいが楽しめる国産ウイスキーとして長年親しまれてきました。
しかし2019年3月、象徴的な銘柄「富士山麓 樽熟原酒50°」がついに生産終了を迎え、ウイスキーファンの間で惜しむ声が相次いでいます。
この記事では、なぜ富士山麓が終売に至ったのか、その背景や味わいの魅力、そして復活の可能性までを詳しく解説していきます。
富士山麓とは?キリンが誇る国産ウイスキーの代表格
「富士山麓」は、キリンビールが静岡県御殿場市に構える「キリンディスティラリー富士御殿場蒸留所」で製造されたウイスキーです。
その名の通り、富士山の麓という澄んだ空気と良質な水に恵まれた環境で生まれた一本。洋梨やオレンジピールを思わせるフルーティな香りと、黒糖・キャラメル・焼き菓子のような芳ばしさが重なる、上品でまろやかな味わいが特徴です。
「この価格でこのクオリティはなかなかない」と評されるほど、コストパフォーマンスの高さが支持されてきました。
ハイボールにも合い、家庭でも気軽に楽しめる“国産ウイスキーの定番”として、愛飲者の層は非常に幅広いものでした。
終売の発表とその経緯
キリンは2018年11月、「富士山麓 樽熟原酒50°」を2019年3月末で終売すると発表しました。
理由は意外にも「販売不振」ではなく、“人気が出すぎたことによる原酒不足”です。公式コメントでは、「予想を上回る販売が続き、今後安定的な商品供給が難しくなったため」と説明されています。
つまり、売れすぎて原酒のストックが追いつかなくなったのです。
富士御殿場蒸留所ではブレンデッド、グレーン、モルトの3種類の原酒を一貫生産していますが、ウイスキーは最低でも数年以上の熟成が必要。需要が急増しても、すぐに生産量を増やすことはできません。
この構造的な課題が、「富士山麓」終売の最大の理由と言われています。
なぜ今、国産ウイスキーが“終売ラッシュ”なのか
富士山麓だけでなく、ここ数年で多くの国産ウイスキーが相次いで終売・休売となっています。
「白州12年」や「響17年」など、名のある銘柄が姿を消した背景には、ジャパニーズウイスキーブームによる世界的な需要の高まりがありました。
海外市場では、日本のウイスキーは「繊細でクリーン」と高く評価され、輸出量が急増。
その結果、長期熟成に必要な原酒の確保が難しくなり、メーカー各社が生産体制を見直す流れに入っています。
富士山麓もその波を受けたひとつの象徴的なケースなのです。
富士山麓 樽熟原酒50°の味わいと人気の理由
終売となった「富士山麓 樽熟原酒50°」は、アルコール度数50%という力強いスペックを持つ一本。
加水を最小限に抑え、原酒そのままの個性を引き出した設計で、濃厚でありながらもバランスの取れた味わいが魅力でした。
香りはバニラや柑橘、ほんのりとしたミントのような爽やかさ。
口に含むと、とろりとした舌触りの中に甘みとスパイスが広がり、余韻には樽由来のウッディな香りが残ります。
ストレートでもロックでも楽しめ、ハイボールにしても香りがしっかり立つ万能型。
特にウイスキー初心者からも支持された理由は、「飲みやすいのに奥深い」バランス感。
強さの中にもまろやかさがあり、日常的に飲める価格帯で本格的な味を楽しめる稀有な存在でした。
終売後の市場価格と“プレミア化”の現象
終売が発表されて以降、「富士山麓 樽熟原酒50°」は一気に市場価格が上昇しました。
かつて1,500円前後だったボトルが、今では5,000円を超える価格で取引されることもあります。
さらに「富士山麓 シングルモルト18年」に至っては、定価1万5,000円ほどが70,000円近くに高騰。
この背景には、“在庫限り”という希少性と、飲みやすさへの再評価があります。
「もう二度とこの味に出会えないかもしれない」という思いから、コレクション目的で購入する人も増え、オークションサイトでも人気が続いています。
終売後に登場した新ライン「富士山麓 Signature Blend」
一方で、終売後もブランド自体が消えたわけではありません。
後継商品として登場したのが「富士山麓 Signature Blend」です。
2018年から新たに発売され、よりフルーティで華やかな香り、なめらかな口当たりを重視したブレンドとなっています。
「富士山麓 樽熟原酒50°」が“原酒の力強さ”を打ち出していたのに対し、「富士山麓 Signature Blend」は“調和と香りの美しさ”を前面に出した仕上がり。
洋梨やオレンジピール、黒糖やキャラメルのような香りが幾層にも重なり、ソフトで上品な印象を残します。
飲みやすさを重視する層には好評で、今やキリンの主力ウイスキーとして安定的に販売されています。
終売とともに再注目された「富士御殿場蒸留所」
富士山麓の終売をきっかけに、製造拠点である「富士御殿場蒸留所」自体への注目も高まりました。
ここでは、モルト、グレーン、ブレンデッドを一貫して生産できる数少ない国内蒸留所として知られています。
さらに、富士山の伏流水を仕込み水に使い、冷涼な気候を生かした熟成環境を持つのが大きな強みです。
実際に見学ツアーも人気で、ウイスキー造りの現場を間近に見ることができます。
“富士山麓の味はどこで生まれるのか”を知る上でも、蒸留所はファンにとって特別な聖地のような存在となっています。
終売ウイスキーが愛され続ける理由
人は“もう手に入らない”と聞くと、途端にその価値を再認識するものです。
富士山麓の終売もまさにその典型例で、「あの味がもう一度飲みたい」という声が今も絶えません。
・価格以上の満足感があった
・ハイボールにしても香りがしっかり残る
・国産ウイスキー入門に最適だった
こうした評価が今になってSNSで再燃し、「在庫があるうちに確保したい」という動きが加速しています。
終売が「ブランドの死」ではなく、「ブランドの伝説化」を生んだケースと言えるでしょう。
富士山麓は復活する可能性があるのか?
終売から数年が経過した今、「復活してほしい」という声はますます高まっています。
キリンは現時点で「再販の予定はない」としていますが、ウイスキー業界では“終売からの復活”は珍しくありません。
過去には「白州12年」や「竹鶴ピュアモルト」なども、原酒確保が進んだタイミングで再登場した例があります。
富士山麓においても、今後原酒ストックが安定すれば、限定版や特別復刻版という形での再登場は十分に考えられます。
特にキリンは長期的なブランド戦略の中で「富士」という地名を冠したウイスキーを育てており、その象徴を完全に手放すとは考えにくいのです。
今楽しめる富士山麓 Signature Blendとおすすめの飲み方
現在も入手できる「富士山麓 Signature Blend」は、終売銘柄とは違う魅力を持っています。
香り高く、滑らかな飲み口は、食中酒としても優秀。
ハイボールにすれば華やかさが増し、ストレートでは繊細な甘みと余韻を堪能できます。
ウイスキー初心者にも勧めやすく、上位銘柄を待つ間の“つなぎ”としてではなく、“新しい富士山麓”として楽しめる一本です。
終売が教えてくれた“日本のウイスキーの現在地”
富士山麓の終売は、単なる一本の販売終了ではなく、ジャパニーズウイスキー全体の“転換点”を象徴する出来事でした。
原酒不足という課題を乗り越えるために、多くの蒸留所が設備拡張や新原酒の仕込みに取り組んでいます。
今後5年、10年の熟成を経て、再び市場に戻ってくるウイスキーも少なくないでしょう。
富士山麓がその中の一つとして“復活の日”を迎える可能性もあります。
もしその時が来たら、きっとまた多くのウイスキーファンが「おかえり」とグラスを掲げるはずです。
富士山麓 終売の理由と未来への期待をまとめて
「富士山麓」は、売れすぎたがゆえに終売した、少し皮肉な成功の象徴です。
手頃でありながら本格派という魅力が支持され、気づけば多くの人が“なくなる前に買っておけばよかった”と惜しむ存在になりました。
しかし、ブランドはまだ生きています。
「富士山麓 Signature Blend」を中心に、キリンの富士御殿場蒸留所は今も新しいウイスキーづくりを続けています。
終売は一つの区切りであり、次の熟成を待つための“静かな時間”なのかもしれません。
富士山麓の復活を願いながら、今あるボトルをゆっくりと味わう。
そんな時間こそ、ウイスキーがくれる最高の贅沢なのではないでしょうか。

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