ウイスキー好きなら一度は目にしたことのある「サントリーオールド」。黒くて丸みを帯びた瓶、金色のラベル、どこか懐かしい“だるま”のような形。長年日本のウイスキー文化を支えてきたこのボトルに「終売」という言葉がつきまとうようになったのはなぜでしょうか。
そして、かつて存在した「43度表示の特級ラベル」がいつ、なぜ消えてしまったのか。その背景を丁寧にひもといていきます。
「サントリーオールド」とは?戦後から続く“日本の顔”ウイスキー
サントリーオールドが誕生したのは1950(昭和25)年。戦後間もない時期に「日本人の口に合うウイスキーを」という想いから誕生しました。
当時はまだウイスキーが高級品だった時代。丸みを帯びたボトルデザインは「福だるま」と呼ばれ、縁起の良い酒として料亭や寿司屋で愛されました。いわゆる“出世したら飲めるウイスキー”というステータスシンボルだったのです。
昭和〜平成のはじめにかけては贈答用や祝いの席の定番。高度経済成長の象徴的な存在でもありました。
しかし時代が移り変わるにつれ、嗜好の多様化やハイボールブームの到来により、サントリーオールドは少しずつ表舞台から姿を消していきます。
「終売」とは?ブランド自体は今も現役
まず確認しておきたいのは、「サントリーオールド」というブランドそのものは現在も販売中だということです。
一部のネット記事やSNSでは「サントリーオールドが終売」と誤解されがちですが、実際には“ラベルや仕様が変わった”だけ。現行ボトルは43度700ml仕様で、今でもスーパーや酒販店で手に入ります。
では、なぜ「終売」と言われるのでしょうか。
それは、かつて存在した“特定の仕様”——つまり「特級ラベル」時代のサントリーオールドが生産終了しているためです。
当時のボトルは、アルコール度数43度、容量760ml(のちに700ml)で、「特級」と書かれたラベルが特徴でした。この「特級」が意味するのは、ウイスキーの格付け制度による品質等級です。
「特級」ラベルとは何だったのか?日本のウイスキー等級制度
昔のウイスキーには、「特級」「一級」「二級」という等級が存在しました。
これは日本の酒税法に基づく制度で、混和率(原酒の割合)やアルコール度数などによって分類されていました。
「特級」はその最上位ランクで、一定以上の品質・原酒比率を満たしたウイスキーにしか表示できなかったものです。
つまり、「サントリーオールド 特級 43度」と書かれたボトルは、当時の最高等級を誇るプレミアムウイスキーでした。
この“特級ラベル”は、昭和のウイスキー文化そのものを象徴していたとも言えます。
「特級」ラベルが消えたのはいつ?制度廃止と時代の転換
「特級」表示が消えたのは1989(平成元)年4月1日。
この日に酒税法が改正され、ウイスキーの等級制度が廃止されました。
以降、「特級」「一級」「二級」といった格付け表示は使えなくなり、サントリーオールドを含むすべての国産ウイスキーからその文字が消えました。
つまり、「特級」と書かれたサントリーオールドは1989年以前に製造されたボトルであり、それ以降は法律上“表示できない”ものとなったのです。
この制度変更が「特級ラベルが消えた理由」であり、同時に“特級仕様が終売した”とも言われるゆえんです。
43度表示のサントリーオールド、その後の仕様変化
等級制度の廃止後もサントリーオールドはリニューアルを重ねています。
1980年代後半〜2000年代にかけては以下のような流れで仕様変更が行われました。
- 1989年:「特級」表示廃止。ラベルデザインを変更。
- 1990年代:「マイルド&スムーズ」40度仕様が登場。
- 2006年:「THE サントリーオールド」として刷新。
- 2008年:43度仕様が復活。向かい獅子マークが再び採用され、現行モデルへ。
つまり、“43度表示”そのものは復活していますが、かつての「特級ラベル付き43度仕様」とは中身もラベルもまったく別の時代のものです。
終売したのは「特級ラベル時代の43度ボトル」であり、現行品はそれを受け継ぎながらも別のラインとして続いている——という整理が正確です。
「特級表示あり」ボトルは今どうなっている?
現在、市場に出回っている「サントリーオールド 特級 43度」は、いわゆるオールドボトル(古酒)として扱われています。
酒販店やオークションサイトでは「特級表示あり」「終売品」「昭和時代のボトル」などと表記され、コレクターズアイテムとして人気があります。
ただし、古酒には保存状態によるリスクも伴います。
液面の低下(いわゆる目減り)やラベルの退色、コルクの劣化などが起こることがあり、味わいにも影響する可能性があります。
そのため、購入の際は「観賞用」「コレクション目的」であることを理解した上で選ぶのが賢明です。
また、販売時の説明文に「終売品」と書かれていても、それはラベル仕様が終売したことを指しており、ブランド自体が消えたわけではありません。
この点を正しく理解しておくと、情報の誤解を防ぐことができます。
「サントリーオールド終売」という言葉が広まった背景
ここ数年、「サントリーオールド 終売」という検索が増えています。
その背景には、昭和世代にとって懐かしい“特級ラベル”のボトルが市場から姿を消したこと、そしてSNSで古酒が注目されていることが関係しています。
また、同時期に他のサントリーブランド——たとえば「白州18年」や「響17年」などの一時的な休売・限定販売が話題になったことも、混同を生んだ一因です。
「オールドも終売なのでは?」という声が出たのは、そうした情報の錯綜によるものと考えられます。
実際には、サントリーオールドは“現役ブランド”。
ただし、「昭和時代の味を再現したい」「特級時代の香りをもう一度楽しみたい」というファンの間で、古いボトルの再評価が進んでいるのです。
現行サントリーオールドの味わいと特徴
現行のサントリーオールド(43度700ml)は、ブレンドを現代の嗜好に合わせて調整した一本です。
昔の特級ラベル時代よりもまろやかで飲みやすく、香りも落ち着いており、ハイボールにも合う仕様となっています。
とはいえ、根底にある“サントリーらしい甘やかでコクのある味わい”は健在。懐かしさを感じながらも、現代の飲み方にも合うウイスキーとして復権しています。
また、限定デザインボトル(干支ラベルなど)が毎年発売されており、ギフト需要も根強い人気を保っています。
サントリーオールド終売の真実と「特級」ラベルの価値
結論として、「サントリーオールド終売はいつ?」という問いへの答えは——
ブランド自体は今も続いており、終売したのは“特級ラベル時代の仕様”である、ということになります。
そして、「43度表示の特級ラベルが消えた理由」は、
1989年の酒税法改正による等級制度廃止と、それに伴う商品リニューアルが直接の要因です。
つまり、「消えた」のではなく、「時代とともに姿を変えた」と言うほうが正確でしょう。
昭和を象徴する「特級サントリーオールド」は、今では手に入りにくい一本ですが、その存在は日本のウイスキー史を語る上で欠かせません。
現行オールドを手に取ったとき、瓶の丸みや香りの奥に、かつての“特級時代”の記憶を感じ取ってみるのも一興です。
ウイスキーが“嗜好品”から“文化”へと進化していく中で、サントリーオールドはこれからも静かにその物語を紡ぎ続けていくでしょう。

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